しかし良夫ちゃんは僕の言う事などサラっと流す…
仕方なくいつも付き合う。
それがまた、果物選びに時間が掛かる掛かる…
急いでよ、などと言えば夢見る乙女のような事を言い出す。
「果物の声を聞くんです。手に取ってじっと聞いていると【食べられたい】って教えてくれるんです」
んな訳あるか!!
果物は喋りません!
何かを感じているのかと、不覚にも最初の頃は信じた。
散々選んで買って来た果物を、車の中でクーラーボックスに移す。
「あっ!腐ってました!今のトコ戻ります!」
いや…
腐っているのは果物じゃない…
アンタの頭だ!
間違いねーー!!
この日も付き合っているのが面倒だったので車の鍵を受け取り、僕は先に車に乗って良夫ちゃんを待った。
しばらく経っても良夫ちゃんが戻らない。
いくら何でも遅過ぎる。
携帯に電話するが出ない。
ジジィ…
車の場所忘れたか?
僕は仕方なく良夫ちゃんを迎えに出た。
八百屋まで歩いて100メートル程である。
すぐに良夫ちゃんは見つかった。
一人の少年に胸倉を掴まれていた。
それを見守るように、もう一人の少年が立っている。
何されてんねん…
勘弁してよ…
歩いて三人に近づいて行くと、良夫ちゃんが少年に、横っ面を張り飛ばされるのが見えた。
強烈なビンタである。
余りの音の大きさに僕は吹き出しそうになった。
可笑しくて仕方ない。
抵抗ぐらいしろよ…
それにしても酷いガキどもではある。
50代前半とは言え、どう見ても良夫ちゃんの見た目は老人なのである。
絶対と言えるほど、良夫ちゃんから人に喧嘩を売る事は無い。
それを二人掛かりでビンタ…
少しイラッと来た。
たいして強そうに見えない二人組であった。
二人共、僕に背中を向けている。
不意打ちすればイケるかな?
どんなに強そうに見えないとしても、二人相手に勝てるなどと僕は自分を過信したりはしていない。
逆に、素手の喧嘩は、一対一でも苦手である。
倒す手順を考えながらユックリ歩いた。
僕の視点から見て、1番遠くに良夫ちゃんがコチラを向いて立っている。
一つ手前に良夫ちゃんの胸倉を掴む少年、茶髪。
更に一つ手前…
僕に1番近い所に、二人を見守るように立つ、黒髪の少年が居た。
少し茶髪より体格が良く、多少強そうに見えた。
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