「もうやめロ!もうやめてくれヨ!!」
中華ソバが僕の背中に抱き着きながら叫んだ。
全く抵抗出来ない。
ダメだ…
ここでやめたら仕返しされる…
「離せ!お前も殺すぞ!!」
口ではそう言ったが体が人の物の様に重い。
完全に体力の限界であった。
レシ担男の痛がり方は尋常では無かった。
即座の反撃は出来はしない。
金玉潰れたか?
中華ソバに、もうやらないと伝えて、道端に座り込んだ。
レシ担男に駆け寄る中華ソバに、気力だけで言った。
「警察が来る… 僕の車取って来い… 移動するぞ… 急げ… ここに居たら、すぐに全員捕まる…」
気を失いそうであった。
疲れだけで、人は気を失う事があるのかと、この時初めて知った。
中華ソバがレシ担男を道端に寄せて車を取りに走る。
僕はレシ担男の股間の辺りを目だけで見た。
レシ担男は股間を手で押さえ、額には脂汗をかいて唸っている。
その手の周りに血が見えない。
金玉は潰れていないように感じた。
この金玉蹴りの前に、僕は喧嘩で、二人の金玉を潰している。
その時は股間の辺りが血だらけになっていた。
逃げ切ったので、ドコから血が出ていたのかは分からなかった。
しかし、のちに知った。
玉の袋が裂けて出血する場合もあるらしいが、多くが尿の出口から出血する。
出血が無い場合もある。
この時は、玉が潰れるイコール出血だと僕は思っていた。
やはりトドメを刺さなければまずい…
そう思った。
深呼吸を繰り返し息を整える。
強烈な吐き気にめまいがする。
激しかった剣道の練習の時にさえ感じた事の無い虚脱感が全身を包んでいた。
道端の喧嘩は、道場でやる、どこか体力の限界を超えない練習とは違って、本能が命のやり取りと理解するのか、限界をアッサリ超えるようである。
体力の回復など、すぐに出来ないような気がした。
這うようにして、うずくまるレシ担男に近づき、髪の毛を掴んで顔を上げさせた。
レシ担男は唸りながら泣いていた。
なんだコイツ…
泣いてんじゃん…
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