カウンター前に着いて二枚のレシートを店員に渡した。
二枚で14万程である。
同時に携帯をポケットから取り出し耳にあてた。
カウンターの店員は何のチェックもしないで景品を数え始める。
イケるの…?
心臓が早鐘のように鳴る。
鼓動が耳の奥で聞こえる。
早くしてくれ…
数秒が数分に感じた。
その時、二人の店員が僕の後ろを通ってカウンターの中へ入って行く。
計量機の前に居た白シャツと店員であった。
カウンターの店員が袋に詰める景品を二人はジッと見ている。
僕は無理に作った笑顔で携帯に喋り掛けた。
「スロットで馬鹿当たりしたよ! だいぶ勝ったぞ! お前も来いよ! クランキーコンドルって台。知ってる? あの台まだ出るよ!」
僕は話す事をやめなかった。
話しをしている事によって問い掛けられる事を防ぐ。
更には、なんとかして二人の店員に、目の前にある景品がスロットで出した物と思わせたかった。
パチンコの計量機とスロットの計量機は違うからである。
それは僕が、カウンター前を離れる、一瞬の勘違いで良かった。
白シャツは景品から目を切って僕を見ていた気がする。
はっきりは分からない。
体から力を抜く事に集中していた。
景品を受け取った僕は誰の顔も見ずに外へと向かった。
駆け出しそうになる足を必死に止めた。
後ろで店員同士が話しをしているような気もする。
振り返りそうになる首も必死に押さえた。
換金所方面の自動ドアが開く。
通り抜ける。
後ろで自動ドアが閉まった。
右へ行けば換金所。
僕はタメラいなど一切なく左へ全力疾走で走り始めた。
心臓が口から出そうになる。
脇目も振らず真っすぐに走った。
店が見えなくなる、直前の所まで来て、走りながら後ろを初めて見た。
僕が出た店の出口の前には、数人の店員が出て、こちらを指差している。
僕は立ち止まって振り返った。
息を整える。
苦しい…
逃げ切った歓喜に声が出た。
「抜けさくーー!! あほーー!!」
楽しくて仕方なかった。
すると店員の中から二人の店員が飛び出した。
僕に向かって来る。
やべ!!
怒った!!
僕は、余計な事を言った事に後悔しながら、再び全力疾走に入った。
この日、僕から歓喜が消える事は無かった。
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