「じゃあ、お母さん最初に行こうか」
「はい」
婆さんはそれだけ言った。
婆さんがイキナリ疑われる事は無いであろう。
このゴトのキモは、見た目で疑われない事が全てのような気がする。
後半に来れば変わるだろうが、最初はそうであろう。
有り得ない金額でも、婆さんと良夫ちゃんなら通る。
普段から二人のゴトは見た目だけに助けられている。
決して技術や感覚が鋭い訳では無い。
どちらかと言うと二人とも鈍い。
自分達が、犯罪を犯している事を、分かっていないのかと思う時すらある程、堂々としている。
僕が余り二人のゴト師スタイルに文句を言わないのは、二人に罪の意識を持たせたくない為でもある。
責めれば罪を意識してしまうような気がした。
それは手を縮ませる。
脅威を知って、それに打ち勝つのが本物の強者であろうが二人は違う。
脅威を知らない強さであろう。
二人はそれで良いような気がする。
僕がコントロールさえ間違えなければ…
僕がコントロールに誤って二人が捕まったとしても、二人は僕を責めはしないだろう。
ゴトは捕まる事を前提にしている事は理解しているようであった。
婆さんにレシートを三枚渡した。
合計金額は15万円を越える。
万が一疑われた場合の、切り抜け方を教えた。
「店員は疑って来たら、どの台で出したって聞いてくるから、覚えてないって言いな。それだけ言い続ければ平気だから。 絶対にあの台だったとか言っちゃ駄目だかんね。それだけ言ってれば絶対帰れる。なんかあったらすぐに僕が行くから。良夫ちゃんも同じだよ」
二人は頷いた。
余計な事は二人には言わない。
理解させるだけで疲れてしまう…
アホだから。
もう一つ切り抜け方があったが後で教える事にした。
婆さんの次は良夫ちゃんだと伝えて、待っている手下達に電話をした。
後二人も、すぐに着くと言う。
「着いたらこっち来て。やるゴトは偽造したレシートの交換だから。取り分は両替した金額の三割。上手くやれば10万ぐらいにはなるよ」
それだけ言って電話を切った。
手に入る金額を思い、僕はニヤけた。
危険になって来たら、少し取り分を上げてやるか悩んだ…
婆さんと良夫ちゃんが、ジトッとした目で僕を見る。
負ける訳には行かない…
僕の儲けが減ってしまう…
「なにさ… 二人も三割が良いの?そりゃ助かるわ〜」
二人は首がチギレそうになるぐらい、大きく何度も振った。
この日の僕は二人に勝った…
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