車の扉を閉めたら不思議と笑いたい気分は消えた。
良夫ちゃん達にゴトの説明をする。
「今ツルッパに渡したレシートは偽造だよ。偽物。両替して来るだけで取り分五割」
良夫ちゃんはボンヤリしている。
婆さんが反応した。
「ツルッパさん騙したの?」
「うん、アイツ聞いたらビビるでしょ。言わない方が良いんだよ。まだ楽に出来るから平気だよ」
そして一度〇国人達が疑われ掛けた事や、両替のやり方を説明した。
一人二回ぐらいまでは安全だろうと僕の予想を言った。
「〇国人達が疑われ掛けてるから、間違っても〇国人に間違われる奴はまずいんだよ。だからお母さんと良夫ちゃんに頑張って貰わないと300万円は交換出来ないかも知れない。時間も2、3時間しか無いかも知れないし。出来る?」
良夫ちゃんが言った。
「全部一人で交換したら、150万くれるんですか?」
目が輝いている…
出た。
プッツン!!
「うん… でも駄目だよ…」
残念そうである。
彼の限界とはドコであろう?
捕まるまで止まらない…
いや…
捕まっても止まらない。
このゴトの、ひと月ぐらい前に良夫ちゃんは変造カードで捕まっている。
それを前回と同様に婆さんが助け出している。
一緒に廻っていたツルッパから慌てて電話が僕に来た。
「良夫ちゃん捕まって、お母さん事務所に助け行っちゃったよ!」
またかと思い、急いで現場に向かった。
15分程して電話が鳴った。
通話ボタンを押す。
「来ないで良いです。今帰らして貰いました」
そう婆さんが言った。
どうなってんだ…
このババァ…
捕まったと聞いた時の衝撃よりも、助かったと聞いた時の衝撃の方が強い。
疲れが全身を襲った事を記憶している。
路肩に車を停めて婆さんに言った。
「もうお母さんゴト辞めてくれ!」
この時も本気でそう言った。
婆さんは笑って取り合わなかった。
その婆さんをまた僕は初めてのゴトに引き込む。
このゴトの中心的存在として。
普通は捕まれば助かったとしても手が縮む。
しかし良夫ちゃんと婆さんに限り、ビビると言う事は無縁のようであった。
婆さんがゴトを辞める時は、二人の内のどちらかが警察に捕まった時だと思った。
もう一つは心臓が止まった時であろう。
どうせ一度は捕まるなら、それまでに稼げるだけ稼がせてやろうと僕は決めた。
例えそれがどんなに危険であったとしても…
人の道に外れていたとしても。
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