変な噂が広まるのは困る。
拒否されたり逃走した場合は、一切追い掛けるような真似をするなと店員に伝えておいた。
ナイフが出たり殴られたりする可能性がある。
拒否の確認を、もう一人の店員が離れた位置からしたら、外に待機させている警察に慌てずに伝える。
ここからは警察任せである。
少しは仕事をさせねばなるまい。
警察は、逃げる犯罪者が大好きである。
ホールの外に出たゴト師に対しては、警察は必死になって捕まえようとする。
この二人は手紙の誘惑には勝った。
疑う事も知っていた。
しかし心のどこかで手紙の内容を信じた。
油断するであろう事は予想していた。
捕まらないと安心しているゴト師は、ボンヤリと外に出て、ノンビリ歩いている所を警察に緊急逮捕となった。
あと少し何かが足りなかった。
最初の時こそ制服警官二人がパトカーで店へ来たが、二度目からは私服刑事が覆面パトカーに乗って、4人で来るようになって行った。
後に警察からタケコブタに対して、感謝状が何枚も届く結果になった。
逮捕の際に、大騒ぎになるような事は一度もなかった。
更に後年、タケコブタ系のパチンコ屋は、セキュリティが厳しいと言うゴト師と沢山出会った。
その頃は、スネ夫が出世して、グループの防犯を一手に引き受けていた。
僕はその頃も変わらずにゴト師であった。
ゴト師を騙して捕まえるような事をして、仕返しがあるのではないか?
そうスネ夫が僕に聞いて来た。
「平気だよ」
逮捕されたゴト師は、余程の馬鹿でもない限り仕返しなどしない。
警察に全ての個人情報を握られ、次は刑務所へと直結している。
タケコブタに何か起これば、真っ先に、そのゴト師が疑われる事になる。
リスクのみでリターンが無い犯罪は、キチガイしか起こさない。
損得の計算が出来る奴には無理である。
ゴト師程度の、こそ泥に、心配は要らないと僕は思った。
仮にタケコブタに何かあったとしても、僕には関係の無い事である。
人の痛みに耐えるのは、結構、楽な物である。
その後スネ夫から、仕返しされたと言う報告を、聞いた記憶はない。
僕なら必ず仕返しする…
パチンコ屋に、手痛い思いをさせる方法は、数限りなくある。
一人、二人と生贄を差し出して行くと、カード会社からの注意はピタリと止まった。
しかし調子に乗って、打ち込む金額を上げる事はしなかった。
まだ二軒ある…
無理はよそう…
そう思った。
それから数カ月ごとに、スネ夫の二軒の店は解禁になっていった。
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