電波ゴト28

「この機械が心停止の原因かもね。強い電波なら、何度も浴びれば心臓が止まる事は普通に起こるよ」

え?

マジで?

冷や汗が出た。

更に医者の先生が言った。

「パチンコ屋さんの中で、何をしていたのかは知らないけど、この機械は法律に触れるよね?」

「さあ… どうですかね…」

「犯罪に関連性のあると思われる患者さんは、警察に届けるのが医者の義務なんだよね」

そう医者の先生は言った。

自分のミスに気付いた。

わざわざ警察を僕が呼び寄せたか?

先にリカちゃんの回復度合いを確認するべきであった。

「彼女はもう大丈夫なんですか?」

医者の先生は、話しを逸らされた事に嫌な顔をしながらも答えた。

「電波が原因みたいだから、彼女は4、5日様子を見て退院だけどね…」

仕方ない…

損害の覚悟を決めた…

自分が何か、ドジッたような気がした…

数歩前に出て、テーブルの上に置いてあった道具を、両手で力いっぱいへし折った。

何かを叫んだ医者を無視して、配線の方も、ひきちぎった。

道具の部品を、一つ手の中に握り込む。

組み立てられても機能しない。

しかし損害に泣きたくなった。

「何するんだ!」

「は?何もしてませんよ…」

「いま機械を折ったじゃないか!」

やかましいわ…

50万損こいたばっかりだ…

「折る?折ってませんよ… なんか持ったら形崩れしたみたいだけど…」

言って自分で恥ずかしくなり笑った。

医者は顔を赤くして怒っている。

「もう良いよ!警察呼ぶから!外出て!」

「警察?警察呼んでも無駄じゃないかな?鉄クズ持ってパチンコ屋に行っても犯罪じゃないと思うし… まぁ、好きにして下さい。彼女をよろしくお願いします」

そう言って僕は病院を後にした。

病院に駆け付けた為に、道具を壊す結果になった。

リカちゃんなら警察が来ても、電波のデの字も言わずに自分で言い逃れしたであろう。

打ち子の女の子に、お見舞いに行く事をやめさせた。

他の女の子にお見舞いに行かせ、警察が事情聴取に来たらトボケろとリカちゃんに伝えさせた。

医者の先生は、やはり警察を呼んだ。

伝言はギリギリ事情聴取前にリカちゃんに伝わった。

彼女なら伝言など無くても言い逃れるとは思っていた。

事情聴取はアッサリかわしたが、警察は道具の放棄の書類にハンコを捺させる事を、リカちゃんに強要した。

当然壊れた道具など、ただのゴミなのでリカちゃんはハンコを捺した。

暫くすると彼女は退院した。

「アタシ死んだよ〜」

そう言って笑いながら僕の所に来た。

「あっそう… 良かったね」

なんだよコイツ…

ピンピンしやがって…

あの時僕が駆け付けなければ、警察も呼ばれず、道具は無事に戻って来たかもしれない。

空回りして僕が勝手に道具を壊したような気もする。

放っておけば例え警察に没収になったとしても、損害はリカちゃんから取れたのである。

相手が男なら、何がなんだろうが、すぐに言う。

「金払え」

しかしリカちゃんは強敵である。

せこ〜〜い、とか、デカイ声でブリッ子しながら、周りに言って廻る。

恥ずかしいのである。

試しにちょっと言ってみた。

「道具代… 払ってくれる?」

ジロッと睨まれ言われた。

「なんでよ!」

なんでって…

払えや…

電波の事を医者に喋ったのは、彼女の体を心配したからなのである。

女としてでは無く、仲間としてである。

しかし心配したなどと言えば、トチ狂った勘違いをされる。

更に恐ろしい事を言って廻られる。

言えない…

道具代は諦めるしか無かった。

リカちゃん苦手…

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