数時間後に手下から、書類の作成と茶髪の口座からの現金の引き落としが終わった事を伝える電話が掛かった。
GTRと書類を一人がブローカーの所に運び、残りの手下がGの男を連れて倉庫に戻ると言う。
全て予定通りであった。
これでほぼ終わったと思っていた。
茶髪は少し元気になっていた。
パイプ椅子に座り、僕が渡した缶コーヒーを飲みながら、手下の一人と話しをしている。
ただの世間話しである。
口を聞く態度は下手だが、時間が経つに従い茶髪の言う事はデカくなっていた。
僕はそれを、笑ったり合いの手を入れたりしながら聞いていた。
「〇〇組の〇〇さんって知ってます? 面倒見て貰ってるんですよね」
話しの流れの中で、茶髪は得意そうに言った。
人は意外と早く立ち直る事を学んだ。
仕方がない…
恐怖をもう一度植え付ける…
僕の前で、デカい口など二度と叩けないようにする…
そうしなければ僕達は、ヤクザか警察に全員捕まる…
甘さは捨てるしか無かった。
なぜGの男のように、大人しく俯いて居てくれないんだ…
一時間後に手下達がGの男を連れて倉庫に戻った。
少し経ってGTRが350万円で売れたと連絡が届いた。
回収金額は450万円。
充分である。
茶髪は開放されると信じて完全に元気を取り戻していた。
「おい、50万足りねえぞ」
そう言って、それまで茶髪と笑いながら話しをしていた僕は、木刀を手にした。
周りの手下も驚いた顔をしている。
みんな疲れていた。
手に入ったお金の取り分を計算してもいたであろう。
しかしそれは絵に描いた餅である。
今の茶髪や、Gの男の姿が、明日の僕達の姿になる可能性を強く感じる。
まだ終われない…
僕は掠われる恐怖は二度と嫌だ…
止まらない震えは絶対に嫌だ…
「お前ヤクザに面倒見て貰ってんだろ。ソイツに金持って来させろ」
そう言って茶髪から取り上げていた携帯を返すように手下に指示をした。
手下が戸惑いながら茶髪に携帯を渡す。
「お前の為に命懸けになってくれるヤクザがいるなら呼べ。殺してやるから」
そう言いながら、一歩踏み込んで、携帯を握っている茶髪の左手首に木刀を振るった。
絶叫を上げて茶髪がのけ反った。
手応えは折れた事を伝えていた。
「警察でも良いから呼べ」
更に一歩踏み込んで、膝の横に右上から斜めに木刀を振るった。
その後は、倒れた茶髪に当てないように、頭近くの地面を数回打った。
これでもヤクザや警察が出て来るようなら諦めようと思った。
茶髪はその間、ずっと謝り続けていた。
「そんな人いません!警察にも言いません!お金も用意します!」
そう連呼していた。
少し経って茶髪に缶コーヒーを渡しながら僕は聞いた。
「これで終わりにするか?まだ僕達と揉める元気はあるか?」
「ありません!」
すいません、すいませんと茶髪は何度も言った。
「じゃあ50万は病院代にしな… 転んだって言い張れよ。お巡りが僕達の所に来たら、この中の誰かが、お前達に必ず挨拶にいくぞ。それだけは忘れるな」
そう言って二人をファミレスの駐車場まで送るように手下に指示をした。
昨日の張り込みを開始してから、24時間が経とうとしていた。
この後、ヤクザや警察が僕達の所に尋ねて来る事は無かった。
頼むヤクザが居なかったのか…
頼んだが、僕達を見つけられなかったのかは知らない。
病院に当然訪れたであろう警察に彼らがなんと言ったのかも分からない。
二人に会ったのは、あの日が最後である。
ちなみに450万円の分け方を書いて措く。
デコボコが200万取った。
残りを均等に7人で分けた。
配分は手下達に決めさせた。
受け取った金額を見て、僕は不思議でしょうがなかった…
安くね?
おかしくね?
言えなかった。
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