電波ゴト23

GTRは僕の車をカスめるように、僕の車と同じ車線に入った。

アパート方面に向かう。

すぐに僕は、GTRの真後ろに自分の車をピタリと付けた。

デコボコが騒ぐ。

「近い!近い!」

笑った。

「大丈夫だよ」

そう言って少し車間をあけた。

なんだか楽しくなっていた。

GTRは、アパートの裏手にある、塀で囲まれた10台程が停められる感じの駐車場へ入っていった。

駐車場の奥に停めるようである。

道路からは見えない奥まった位置である。

ここから見えない…

塀で囲まれていて周りからも見えない…

【今だ!】

頭の中で誰かが言った。

考えていた訳では無い。

体が自然に動いた。

「アイツで間違い無いな?」

デコボコに最後の確認をした。

「間違いないですよ!アイツに何回も殴られましたから!」

一つ大きく息を吸った。

自分の車を駐車場に乗り入れた。

「まずいでしょ!」

デコボコが叫んだ。

「黙れ!車から降りんなよ!運転席に座ってろ!」

それだけ言った。

駐車場の中へ入ると一番奥のスペースに車を停める為、GTRは切り返しをしていた。

僕はその鼻面に切り返しを邪魔するように強引に車を停めた。

トランクの開閉レバーを押して運転席から降りる。

素手で黙らせるのは時間が掛かる。

トランクには拷問の時に使おうと思って用意した木刀が二本積んであった。

僕はGTRの運転席に向かい右手を上げて見せ、トランクへ木刀を取りに歩いた。

どこを殴れば声を出さないか考えたが分からなかった。

とりあえず足だな…

次にクビか?

死ぬか?

Gの男が声を挙げた。

「おい!誰だよ!」

うるせえ…

静かにしろ…

木刀を左手に掴んでトランクを閉めた。

Gの男と目があった。

体を車から半分出している。

「おす、ちょっと話しあるから降りてこっち来て」

そう言って、木刀がGの男から見えないように手招きをした。

「誰だお前?」

Gの男は運転席に座るデコボコを覗くようにしながら僕に近付く。

引っ掛かった…

あと5歩…

そこが木刀を力いっぱい振れる、僕の間合いであった。

ガキの頃から剣道ばかりをやっていた。

それが僕の全てだった。

手の皮はズル剥け、足の指は付け根からチギレそうになるのが習慣になる程練習ばかりしていた。

決して悪事に役立てようと思った訳ではない。

純粋に強くなりたかった。

誰にも負けない強い男になりたかった。

僕はその剣を、Gの男の膝頭に向かい、力いっぱい振るった。

絶叫を上げたGの男は地面に崩折れた。

次の一撃はクビと決めていたが、膝への一撃の衝撃に、僕は戸惑った。

手が出ない。

かわいそうだ…

僕は半端者である。

Gの男は意味も分からず許しをこうている。

これ以上は出来ない…

そう思った。

「静かにしろ 声出すと殺すぞ」

そう言ってGの男の髪の毛を掴んだ。

「お前らにギン◯ラの道具盗られた仕返しに来たんだ。覚えてんだろ? 車の中にお前が殴った奴もいるぞ…」

そう言って髪の毛を引っ張り無理矢理車の中を見せた。

「謝る気があるなら車に乗れ。無いなら、この場で殺す!」

「あります!乗ります…すいません」

助かった…

なぜか僕がそう思った。

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