僕は新人を連れ回していたのでタケコブタには婆さんと良夫ちゃんが通っていた。
この頃からツルッパもタケコブタに行くようになっている。
しかしツルッパの、見た目の悪さがスネ夫に嫌われていた。
スネ夫が言う。
「あの人だけはやめて下さいよ〜」
確かに目立つ…
ジーパン履かせてポロシャツを着せて見た。
しかし頭のテカりはいかんともしがたい。
マジックでなんか書いちゃおうかと思ったが生意気にも嫌がる。
「髪の毛生やせよ!」
組の人間に、生やしても良いか、確認を取ると言う。
え?
なんで?
「駄目だって…」
駄目ってなんだ!
お前はガキか!
頭も自由に出来ないのか!
仕方なくニット帽を被らせ、黒ブチの度なし眼鏡をさせた。
うすのろデクノボーだ…
それがツルッパの、ゴト師スタイルになって行った。
ツルッパはビビりなだけで、普通の事は普通に出来る。
僕の周りでは数少ない人材であった…
悲しす…
スネ夫には、ツルッパの見た目を変えた事で納得させ、タケコブタの管理を任せた。
そして僕は一人、飢えたノラ犬になった。
久々の単独行動である。
いや…
足枷がいる。
新人である。
世間は変造カードゴト師で溢れている時期であった。
やり易い店には必ずと言って良いほどゴト師がいた。
タケコブタではゴト師を追い出すような真似をしたが、外の世界で会うゴト師は、相手にしなかった。
基本的にゴト師同志は争ったりする物では無い。
お互いに気付けばテレたりする。
お宅もですか?
そうですよ…
みたいな感じだ。
餌が町場に溢れていればノラ犬だってそんな物である。
何度も同じ奴に会ったりすると会釈して来たりする。
今日もですか?
お宅もですか?
みたいな感じだ。
中には帰りを待ち伏せして、話し掛けて来るフレンドリーな奴までいる。
大概が変造カードの値段を聞きたいのである。
鴨である。
そう言う時はソイツの仕入れ値段より安く言って、僕が間に立てている壁役の男の電話番号を教える。
直接取引は危険である。
なんの義理も無い以上、捕まれば喋る危険が大である。
中にはタチの悪い奴もいた。
大概そう言う奴はドコドコ組の誰々の所のもんだけど、とか恥ずかしげも無く言ってくる。
あほか?
しねっ!
そんな小物知るか!
名前を出せば誰でも知っていると思っているヤクザ崇拝主義の単細胞馬鹿である。
完全にヤクザに良いように使われている事に気付いていない。
カードの仕入れ値も、すこぶる高い。
なのに自分もイッパシの悪人のような態度まで取る。
帰ればヤクザにペコペコしているんだと思えば笑える。
めんどくさいので適当に相手をする。
「僕の所カード一枚1000円だよ。君、完全に鴨にされてかわいそうだね」
とか言ってからかう。
喧嘩になる事はほとんど無い。
なっても負けた事はない。
僕は意外と強かったりする。
喧嘩が終わった後は速攻で逃げる。
勝って良い気分に浸ったりはしない。
警察が出て来てもヤクザが出て来ても面倒臭い。
ゴトでも同じである。
店からギリギリ逃げ切って、安心して外でフラフラしていて捕まる奴が沢山いた。
僕は何かあったら、相手の手の届かない所までイッキに逃げる事をキモに命じていた。
逃げる時は思い切りにげる。
逃げない時は絶対逃げない。
捕まらないコツの一つである。
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