この頃から暫くすると、しきりと妄爺が僕を呼び出すようになった。
雀荘のお客さんの中に、変造カードをやりたい奴が沢山いると言う。
妄爺の頭の回転が、少しヤクザに戻り始めているようであった。
仕方ないと言えば仕方なかったのかもしれない。
雀荘にくるお客さんは、昔の仲間が連れて来る人間が主流である。
麻雀などやらずに妄爺を慕って集まっている雰囲気であった。
「何々組の誰さんが来てるから挨拶しとけば損はないぞ」
「どこどこ組の金看板の人だからケツ持ち頼んでやる」
そんな事ばかりを言うようになった。
確かに肩書は立派なのだろう。
しかし僕はヤクザが大嫌いである。
しつこいので何人かには会った。
だが僕はその人達を見ても何も感じない。
ただ単にウザイ。
確かに話しをすると賢くて男気に溢れた感じの人はいた。
喧嘩になっても負けを認めたりしないような感じの人もいた。
しかし僕が思う事はいつも同じだった。
それがどうしたクソヤクザ…
お前ら、どうせ弱い者イジメが仕事だろ…
大物ぶるな…
そう思っていた。
その手の話しが出ると僕と妄爺は段々と言い争うようになって行った。
それまで無かったような口喧嘩である。
ヤクザを賛美するような妄爺の言動に、どうしても納得がいかない。
「なら何故やめた!」
「俺は歳だからだ。お前はこれからだろう。悪い事を仕事にしていれば、必ず守りが必要になる時が来るんだ」
そう妄爺は言う。
「ヤクザに頼むとそれが乗り切れると思ってんの?後でタカられるだけだろ。ゴト師がヤクザに頼む事なんかないよ。僕を食い物にしたいなら間怠っこしい手を使わないでも良いぞ。金ならいくらでもくれてやるよ!」
僕は心にも無い事を勢いで言っていた。
妄爺は怒りはしなかった。
まるで初めて横っ面を張られた乙女のように、頬は押さえずうつむいた。
あれ?
言い過ぎたか?
キモいよ…
うつむくな…
顔を上げて妄爺は言った。
「お前には感謝してるんだ。だからどうにか安全な形を作ってやりたかっただけだ」
それが余計な事だ…
ハゲジジイ…
「そうだな。ケツ持ちなんかいらねえな。どうも歳取ってボケが来たな俺は… お前になんかあったら俺が出て行けば済む事だったな。歳取ると守りに入るって本当だな」
そう言って妄爺は笑った。
「看板がある方が強いと思ったんだ。俺には看板が無いからな。でもそんな物関係なかったな。なんかあったら俺だけには言えよ。すぐに行ってやる。でも間に合うように言えよ。行ったら終わってたじゃ何にも出来ない」
ジジィ…
分かってねぇなぁ…
頼まねぇって言ってんだよ…
「うん、分かったよ」
そう僕は答えた。
こののち妄爺の予言は何度も当たる。
その度に、目の前を妄爺の顔がヨギった。
しかしそれは、ただヨギるだけだった。
この時期から変造カードが大量に売れるようになった。
妄爺の店に集まる奴らは、全てが何かしらの悪事を働く奴らであった。
それでも不思議とゴト師はいなかった。
妄爺は僕の宣伝マンのような動きを見せる。
望むと望まぬとに関わらず、僕の周りに人が集まり始めていた。
コメント