サンゾクの、一次閉店を向かえた日の夜に、いつもの焼肉屋で小池に会った。
小池は、サンゾクをクビになってから、五ヶ月経つのに、今だに仕事をしていない。
毎晩のようにローンのセルシオに乗って、キャバクラ通いをする小池は、少し太ったように見える。
「お前仕事は?」
「しないですよ。 兵隊いますから」
そう小池は言った。
小池は僕からの変造カードの仕入れ枚数を、一日100枚から150枚に増やしていた。
小池の月の儲けは百三十万円程である。
兵隊とは、変造カードを小池から買って行くゴト師の事であろう。
「カード終わるぞ。少し考えろよ」
言っても無駄な事を知りながら、僕はまた小池に言った。
「終わったら、なんか無いですか?」
「無いよ… 僕だってやめるし」
小池との付き合いを終わらせる時の為に、そう言った。
完全に自分では打たずに、ピンハネで遊んで暮らす小池が嫌いであった。
小池に昨日のハーネスゴトのアガリを渡した。
「これでハーネスの金は終わりな」
そう言って渡した金額は十万円である。
「なんでこんなに有るんですか?!」
小池は驚いて言った。
これでも半分にゴマかしてある。
昨日、良夫ちゃんとゴキブリで換金した金額は、八十万円程である。
良夫ちゃんが五十万ちょっとに、残りがゴキブリである。
結局大当たり100回は出なかった。
あと10回の所で時間切れとなった。
僕が、あと、1、2時間早く台に頼らないセットをやらせていれば届いただろう。
どこか残念であった。
小池に渡す金額をゴマかしたり、ゴキブリの半金を足して、良夫ちゃんに渡した金額は三十万円程である。
「毎日、これが良いですね〜」
これが良夫ちゃんのハーネスゴトを終えた時の感想であった。
僕は懲りた…
毎日やったらハゲる…
顔に全く生気が無くなっていたゴキブリは、四万円程を握りしめて帰って行った。
お金は30%の半分をきちんと渡した。
もう来ないで良いぞと言う積もりでいたが、言えず仕舞いに別れた。
しかし次の日にゴキブリが、僕の所に来る事は無かった。
朝早くゴキブリから電話があった。
「悪いんだけど、組で新しいシノギ任されたんだよ… だからまた今度やらしてくれないかな?」
「分かった… 負けんなよ。また今度な」
謝り続けるゴキブリに、気にすんなと言って電話を切った。
僕は寝ぼけていた…
少しして目がハッキリ覚めたら腹がたった。
脇坂ビビラらせようかと一瞬考えた。
あんなヘボを根性あるとか言いやがって…
僕はこの時、ゴキブリとの付き合いは、これで終わりだと思っていた。
しかし、このザコキャラが、僕の未来を劇的に変える始まりの男である。
サンゾクに手伝いに来た五人組は、仕事らしい仕事はしなかった。
気になっていた換金の時も、呆然とした店長が、大人しく景品を二人に渡したと言う。
仕事はしなかったとは言え、彼らにも払う物は払わなければならない…
ご飯を食べさせてゴマかそうとしたが、余計な払いが増える結果になった…
仕方ないので小池に渡す取り分からゴマかして渡した。
二十万円の所が、十万円になった小池は気付かずに喜んでいる。
働きの無かった小池には充分だ…
僕はこの日を境に小池と直接会う事を避けた。
小池の兵隊が捕まれば、芋づる式に僕まで来る危険が小池には感じられた。
ヘタレの巻き添えはお断りである。
それほど周りのホールでは、捕まるゴト師が増え始めていた。
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