ゴキブリが駄目になると分かった時、僕は他の方法を思いついた。
予定よりゴキブリが潰れるのが早いせいである。
妄爺の店で引き抜いた、使える奴ら五人を、日当一万で呼び寄せた。
やらせる事は偽のギャラリー。
見物者である。
完全に負けを認めたゴキブリが、やめて良いかと聞いて来た。
「ダメだ。セットが出来ないならやらなくても良いからそのまま打ち続けろ。普通に打つなら出来るだろ?」
負け犬が吠えた。
「なんでだよ!意味ねーだろ!!」
「良夫ちゃんが打ち終わるまでやめなかったら、僕の取り分は許してやるよ。どっちでも良いぞ。良夫ちゃんに半分持ってかれるんだから、稼いでおいたらどうだ…」
うんと言え…
ゴキブリに席を立たれたら台を調べられる…
もう一つのゴキブリの使い道は、店員の引き付けだ…
ヘボヤクザにはお似合いだ…
断ったら許さん…
ゴキブリは考えているようであった。
こちらの弱みを見せる訳には行かない…
「それぐらいも出来ねーのかよ!とっとと決めろよ!!」
僕も吠えた。
「分かったよ… やるよ…」
それで良いんだ…
抵抗するな。
夕方5時の段階でゴキブリが負けを認めた。
この時既に、箱数でも良夫ちゃんが抜いていた。
機械のようにセットを繰り返す良夫ちゃんに比べ、ゴキブリは何度もセットをためらった結果である。
残り時間は、良夫ちゃんに頑張って貰うしか無いと思った。
リュウが休憩で僕の所に来た。
「良夫ちゃん凄いアルヨ!玉いっぱい!でも主任が後ろに立ってるよ…」
マークは良夫ちゃんに変わっていた。
良夫ちゃんの戦いが始まる。
あと少し経てば助けてやれる…
そこまで頑張れと思っていた。
呼び寄せた5人に良夫ちゃんを囲ませる。
そして大騒ぎで応援させる。
店員が良夫ちゃんを止めようとしたら、キチンとした理屈で阻止させる。
周りのお客さんも味方に付けてやる…
そこから台に頼らないセットを掛けさせる。
連チャンのスピードを上げる。
あからさまなセットでも誰にも止めさせない。
限界までいける!
そう僕は願った。
少しすると五人が到着した。
作戦を話すとみんな笑っていた。
「一万円って安くないですか?」
そう一人に言われた。
やかましい…
充分だ…
僕にたかるな!
「クビなりたいの?」
そう言ってみた。
結果一万円で納得した。
僕の勝ちである…
やる事は簡単なのである。
良夫ちゃんの周りを囲んで、オジサン凄いね〜と言い続けるだけだ。
止める店員がいたら、出したらいけねぇのかよ!と騒ぐだけだ。
本音を言えば500円でやらないかなと思っていた…
泣く泣く一万円にしてやったのだ…
感謝しろ!
欲たかりども!
ん?
作戦を指示して、すぐにホールに全員送り込んだ。
彼らには変造カードを持たせている。
一枚1200円だ…
少し回収したかった…
良夫ちゃんに台に頼らないセットをするように電話で指示した。
時短中は下の小口チャッカーがチョコチョコ開くので、セット自体は変わらないが少し面倒である。
三個チャッカーに入れる所が、普通に打つと沢山入ってしまう。
その程度の事である。
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