無理矢理僕を止めて、ゴト師として証明が出来なければ、警察は困った事になる。
その頃ギャラリーは僕の周りに沢山いるだろう。
どちらの味方をするだろうか?
警察と店か?
僕は違うと考えていた。
パチンコをやる人間は、パチンコ屋の事を、心のどこかで怨んでいるのでは無いか?
勝ち続けている人など、ほんのひと握りだろう。
多くの人は、結果負け続けている。
なけ無しのお金を握りしめ、負けて帰る時の絶望感…
給料日直後の、思わぬ大敗…
使うはずでは無かったのに、激熱演出に踊らされ、終わって見れば全てが無い…
自分が病気だと気付きながらも、やめられないパチンコ…
勝つ時チョッピリ…
負ける時ガッツリ…
こんな店燃えちまえ!
潰れろ!
金返せ!
泥棒野郎ー!!
理屈は間違っているが、そう思った事が一度も無いだろうか…
その鬱屈した気持ちを抱えた人達が、積み上がるドル箱を見る。
何かに期待しないだろうか?
期待などでは無くても、どこまで出るかの興味に包まれないだろうか?
ギャラリーが味方に付けば換金もスムーズに行くのでは無いか?
拒否されるか?
店側が換金を拒否すれば裁判で勝つしかない。
しかしソコまでは行かない。
ギャラリーが敵でも、サンゾクでの換金は簡単である。
僕の楽しい妄想を、邪魔する電話が、ゴキブリから度々掛かるようになった。
「なに?」
うぜぇ野郎だな…
「ダメだ!俺だけビッチリ張り付かれてんだよ!」
そうゴキブリは言った。
俺だけ?
なんでだ?
予想と逆だった。
僕は不思議に思い聞いた。
「良夫ちゃん出してないの?」
「出してるよ!追い付かれそうだよ!でも打ってらんねーよ!」
なんでだよ…
良夫ちゃんなんかやってんのか…
「…打てねえって言ったって良夫ちゃん打ってんだろ。今やめたら、まだ罰金になるよ。それで良いなら勝手にやめな。つうか良夫ちゃんより先にやめるってどうなの?恥ずかしくねえの?お前イジメてたじゃねーかよ」
「でも俺だけ張り付かれてんだから、しょうがねぇだろ!」
甘ったれんな…
僕はお前の保護者じゃない…
泣けば助けると思ってんのか?
「だから好きにしろよ。今の出玉で良夫ちゃんより前にやめたら罰金は必ず取るからな。お前が持ってないなら脇坂から取るよ」
「なんでだよ!ふざけんなよ!ちくしょー!やりゃ良いんだろ!やりゃ!」
そうだよ…
やりゃ良いんだよ…
まだまだ始まったばっかりだ…
どうしても気になった。
「良夫ちゃん、何で張り付かれて無いか分かる?」
「知らねーよ!あいつ寝ながら打ってんだよ!店員が話し掛けても返事もしねーよ!」
へ?
寝てる…
寝るは全く思い付かなかった。
寝るボケ老人…
天才かも…
馬鹿と天才紙一重…
この時は納得した。
しかし理由は違う所にあった。
終わった時に、僕は良夫ちゃんに聞いた。
「なんで寝ながらやってたの。上手いアイデアだね」
「アイデア? 違いますよ」
ん?
違う?
もしや…
「ホントに眠かったの?」
「違います。家で、秒、数える練習した時、目をつぶって練習したから、その通りやれば出来るかと思って、やったら出来ました。だから時計は見なかったです。店員に話しかけられて、秒が分からなくなるのが大変でした」
やっぱり良夫ちゃんは馬鹿だった。
単なる偶然…
もう少し早く、この【忍法偶然】を僕が知っていれば、もっと出せたと後悔した。
それでも良夫ちゃんは、寝たフリが使えると、途中で気付いたそうである。
そんな事とは知らない僕は、ゴキブリからの電話に、喝を入れる事に集中していた。
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