「時計を見ながらやれば、店員が良夫ちゃんに張り付くけど、なんか言われても、やめちゃ駄目だよ。奴らに良夫ちゃんを捕まえる証拠なんか無いから。どうしてもしつこく止めようとしたら警察呼べって言えば良いよ。もし来たら警察は僕が必ず防ぐから。良夫ちゃんは店員のプレッシャーに耐えて出し続けて」
「分かりました… 席を立たないで出し続ければ良いんですよね?」
そう良夫ちゃんは言った。
「うん、そうだよ… それだけで良いよ…」
しまった…
いっぱい言い過ぎた…
多分忘れちゃう…
時計を見る以外に、あともう一つあるのに…
仕方ない…
逆転出来なさそうだったら電話で言おう…
そう決めた。
電話にはキチンと出てよと言って、良夫ちゃんをホールに送り出した。
良夫ちゃんが出し始めれば、店員は良夫ちゃんを集中的にマークするだろう。
それはゴキブリの腰を引かせる。
自分もあれだけのマークをされるのかと思わせる。
しかし良夫ちゃんから店員のマークが離れる事は無いだろう。
打ち方も見た目も全て良夫ちゃんが不利である。
良夫ちゃんの見た目に迫力は全くない。
そこへいくとゴキブリの見た目にはヤクザかなと思わせる部分がある。
怖そうな見た目より、弱そうな見た目に店員は集中する。
良夫ちゃんからマークが離れない間に、ゴキブリは箱を積み上げるだろう。
しかし良夫ちゃんも、今ある差のまま出し続ける。
店員のマークなど、どこ吹く風でやり過ごす。
トボケた顔で打てば平気だと信じている人である。
マークされていれば普通は出せない。
常識があればヤバいと感じる。
しかし良夫ちゃんに常識など無い。
あるのは非常識と、お金への執着だけである。
店員は余りにも堂々と打つ良夫ちゃんに戸惑うだろう。
悪い事してないのかなと勘違いする店員も現れるかもしれない。
弱そうだから店員は声を掛けていろいろ聞くかもしれない。
良夫ちゃんに常識的な言葉は通じない。
何を聞かれてもトボケ続ける。
そのトボケが通ると信じ込んでいる。
下らない世間話しを店員にし始めるかもしれない。
「仲良くなれば捕まえない」
そういつも言っていた。
そして見知らぬ店員に缶コーヒーを配る…
貰った店員、目が点になる…
そして注目を集める…
駄目じゃん!!
しかし今回に限りそれで良い。
出し続けられれば何でも構わない。
時間が過ぎて箱が積み上がる程にゴキブリは震え出す。
常識が、もうやめた方が良いと騒ぎ出す。
100回目標の奴と、ソコソコ目標の奴の差が出始める。
そしてゴキブリの様な、根性無しには出来ない、最後の手口でブッコ抜く。
見てろゴキブリ…
ハッタリじゃ通れない道がある事を教えてやる…
ホールに良夫ちゃんが戻って10分後に、婆さんに偵察を頼んだ。
「確変引いたみたい。続くと良いわねぇ」
「あ そう… お母さんに言ってなかったけど、僕には未来が見える力があるんだ」
「嘘おっしゃい。無いでしょ」
「ホントだよ!良夫ちゃんの台、出続けてるのが見える。100回出るかもよ!」
はい、はいとアッサリ電話を切られた…
頭がおかしいと思われた?
いいえ…
おかしいのは、あなた達です。
それからも良夫ちゃんは順調に出し続けた。
ゴキブリも、差を詰められる事無く出し続けている。
その差がどれぐらいだったのかは、当然覚えていない…
悪しからず。
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