パチンコ屋の中には、裏ロムやハーネスのセット方法を詳しく知らない所が多数存在していた。
それでも特定の絵柄が出た後に、何十秒か待つと言う事ぐらいは知っていた。
時計を見ながらセットすると、裏ロムやハーネスが付いている事を、確信されてしまう可能性が非常に高い。
セットの難しい所を挙げるとするならば、時計を見ずに時間を計ると言う所である。
しかし正確でなくて構わない。
一分を計るのにプラスマイナス15秒ほどの差は問題ない。
頭の中で数字を数えても、普通はそれほど狂わない。
普通…
普通ってなんだろう…
悲しくなる…
良夫ちゃんは練習の時、出来なかった。
セット方法自体は覚えた。
ホールで僕が横に座り、時計を見ながら練習させた。
「次、40秒待つんだよ。 頭の中で数えて、40秒経ったと思ったら打ち出して」
「はい、分かりました」
そう良夫ちゃんは確かに言った。
言ったんだ!!
ん?
一分過ぎたけど…
さらに少ししてから打ち始めた。
ねーねー
マジで?
もう勘弁して下さい…
懲りずに何度も練習させた。
諦める訳には行かない。
代わりはいないんだ…
練習したホールが閉まる頃には、体内時計も正確になり、ほぼ完璧になった。
「家帰ってからも時間の練習だけはしてね」
そう頼んだんだ…
クソヤクザに負けたくないんだ…
本番直前に、キチンと出来るか当然確認した。
出来た!
少し狂うけど!
それがなんで出ないの?
ジリジリと時間が過ぎる。
婆さんに何度目かの偵察をさせた。
「良夫ちゃんだけ出てませんよ。あの台中々当たらない台なのよ。私嫌いなの」
黙れ…
ボケに付き合ってられない…
始めてから一時間経とうとしていた。
我慢の限界だった。
良夫ちゃんを外に呼び出すのは危険だったが仕方がない。
まだゴキブリ一人が出しているだけなので普通の範囲だろう。
疑われていれば台をいじくられてしまう。
平気だと判断して良夫ちゃんを携帯で呼び出した。
ノロノロと歩いて来る良夫ちゃん。
走れ!
ボンクラ!
「出ませんね〜」
ノンキに良夫ちゃんは言った。
「良夫ちゃん、ちゃんと聞いてくれよ。このままだとゴキブリに負けるよ。負けても良いか?」
「嫌です。でも出ないから…」
そう良夫ちゃんは言った。
「危険だけど絶対勝つ方法が二つある。やれば必ず勝つ!」
「やります」
ためらいが一切無い男であった。
セットの方法をちゃんと覚えているか確認した。
完璧に覚えていた。
やはり問題は体内時計だけである。
勝てる!
「時計見ちゃいな」
そう僕は言った。
「え?良いんですか?」
「良くは無いよ。でも見なきゃ駄目だろ?」
はい、と良夫ちゃんは答えた。
時計を見る打ち子など聞いた事が無い。
この時僕は知らなかったが、時計を見たら大体打ち子はクビになった。
それだけ疑われてバレる可能性が高いのである。
強行な店なら打つのを止める。
しかし状況がこうなった以上、負ける可能性が出て来た。
全ての危険に目をつむって貰うしかない。
「どうせ20回も出せば店員に張り付かれるから、それが早いか遅いかの問題だよ。完全にマークされたらトイレも短時間じゃなきゃ駄目だよ。台離れたら何されるか分からないから」
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