またやられた…と言うのは、妄爺が刑務所を出た直後の事を言っていた。
前回妄爺が刑務所を出た時、貯金が四千万円あったと言う。
カタギになる為に、そのお金で、東京の赤坂に高級ブティックを開いたそうである。
東京の赤坂と言えば一等地である。
その時も組の名前入りの花輪がズラリと並んだ。
お客さんも沢山来たと言う。
それらは全て、姉さんと呼ばれるヤクザ絡みの女達であった。
洋服を一度に買って行く金額も高額である。
しかし、喜んでいられたのは一ヶ月ぐらいであった。
付き合いとミエで一度は大金を使って行ったが、姉さん達が、妄爺の店を訪れる事は激減して行った。
ならば普通のお客さんと思う所だが、ヤクザが経営すると知られたお店に、来るお客さんは居なかった。
妄爺は商売も下手だったのだろう。
半年で店は潰れた。
やはりただの間抜けハゲジジィであった。
しかし雀荘は好運な事に違った。
客が途切れる事はなく、毎日の売上も結構な額にのぼった。
二ヶ月目には僕が出したお金は全額返済された。
その客の中や、客の連れの中には、妄爺の予想通り、変造カードをやりたがる男達が沢山いた。
その中から使える奴と使えない奴をふるいに掛けた。
数日一緒に変造カードをやって廻ればすぐに分かる。
基準は怖いと口に出すか出さないかだけだった。
それが例え、やせ我慢でも、震えていても構わない。
それでしか僕は人が計れない。
捕まる可能性を感じ取れない。
少しドコかが歪んでいるのである。
使えると思った奴にはカードを安く卸した。
使えないと思った奴には高く卸した。
ただの鴨である。
そのテスト期間中の新人と、ゴキブリを連れて三人でホールを廻った。
ゴキブリの僕に対する態度は対等である。
エラーカードの解除のやり方を教えて三人でホールに入った。
もちろん、やり易い店を選んでいる。
新人はすぐに普通に打ち出した。
しかしゴキブリは、中々カードを入れずにホールを歩き廻る。
怖いのか?
近づいて声を掛けた。
「なにやってんの?早くやりなよ」
「分かってるよ。良い台が無いか探してんだよ」
そうゴキブリは言った。
嘘こけ…
このヘタレが…
「出来ねえなら車に居て良いよ」
生ごみ野郎…
燃えもしない…
「いや、出来るよ」
そうゴキブリが言った。
じゃあとっととやれよ…
捕まっちまえ、バカ…
ゴキブリは無理してサンドにカードを入れた。
完全に動きが不審者に見える。
すぐ横に座って僕は言った。
「キョロキョロすんなよ。誰が来ても前だけ見てりゃ良いよ。捕まりそうになったら助けてやるから」
「分かった…」
そう言ったゴキブリのハンドルを持つ手は震えていた。
こいつしょーがねぇな…
何が分かっただよ…
素直なヤクザなんて可愛くもなんともねぇよ。
強がりぐらい言え!
すぐに僕はゴキブリから離れた。
巻き添えはお断りである。
当然助ける気などサラサラない。
余りビビられて、やりやすい店が潰れるのが嫌だった。
一時間もすると、ゴキブリがまたホールを徘徊し始めた。
通りすがりに、僕を見た目が、助けてと言っている。
コノ!
ホールの店員に、疑っている動きは皆無である。
ゴキブリを外に呼び出して聞いた。
「どうした?」
「なんか店員に目ぇ付けられたみたいだよ…」
有り得なかった。
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