偽造・変造カード26

その後にも変装はしばしば見た。

髪の毛の分け目を右から左に変えて、普通の眼鏡だけ掛けてくる事もあった。

変装じゃねーじゃん!

その日の気分じゃん!!

「そりゃ無理だろ〜」

呆れて僕が言うと良夫ちゃんは言った。

「平気ですよ。全然違うでしょ?」

コイツ本物のプッチンだな…

年寄りの髪型なんて誰も見てねーよ!

顔が同じじゃん!

更にある…

口にティッシュをいっぱい詰めて来た。

小肥りに見せる作戦らしい…

しかし良夫ちゃんは元々小肥りだ。

「絶対無理!!」

そう僕は言った。

しかし良夫ちゃんは、基本的に僕の言う事を聞かない。

僕を、おかしい人だと思っていた節すらある。

確かに、これらの変装はバレた事がない…

余りにも堂々とやるからだと思う…

帰り道良夫ちゃんに、平気だったでしょ〜と言われた時の、屈辱たるや言葉に出来ない。

ティッシュを口に詰めた時は、口にティッシュが入っている事を忘れ、ジュースを飲んで喉に詰まらせ、死にかけていた。

どちらがおかしいの?

僕かな?

今でも僕は悩んでいる…

聞くと恐ろしいので、良夫ちゃんがどんな変装をするのかは聞かずに、一人目の打ち子に決めた。

そしてもう一人。

静岡の揉め組の、脇坂の兄弟分。

脇坂と組は違う。

関東の巨大組織の男だった。

名前はゴキブリ。

クソヤクザに名前を付けるのもダルい。

後に登場する事があるので一応付ける。

今では顔も本名も忘れたザコキャラである。

脇坂が一ヶ月ぐらい前に言って来た。

「シノギが無くて、苦しい兄弟がソッチにいるんだけど、変造カード一緒にやらしてやってくんねえか?」

ざけんな!

お前らなんぞ、勝手に飢えろ!

ん?

待てよ…

鴨に出来るか?

「カード一枚二千円なら良いよ。そんでも、二、三日連れまわして、根性無しや、ビビりだったら断るよ」

二千円は高い、などとホザいていたが、引く僕ではない。

嫌ならやめな…

鴨にならないヤクザとは付き合わん…

僕が金額を、全く下げる気が無い事に気付いた脇坂は、シブシブ頷いた。

ざまーみさらせ…

脇坂は言う。

「根性は誰にも負けねー奴だから心配すんな」

ホンとかよ…

そう思った。

そのゴキブリを一週間程前からカードをやるのに連れ回していた。

このころ既に妄爺の雀荘は開店していて軌道に乗っていた。

昔の組の人間や、知り合いに声を掛けた所、妄爺の仲間が大挙して訪れた。

妄爺と同じ組だった人間の多くは他の組に移っていた。

麻雀卓が四つの狭い雀荘である。

開店の日、その雀荘の前には開店を祝う組の名前入りの花輪が、無数に並んだ。

「またやられた…」

そう妄爺は言う。

「何を?凄いね」

単純に凄いなと僕は思った。

妄爺は直前まで焼き芋屋のオヤジだったからである。

手の平の水ぶくれさえ消えていない。

ヤクザだったと言う事さえ信じられなかった。

集まる客は、どいつもこいつも運転手付きの高級車でやって来る。

なぜか嬉しかった。

こう言う暮らしを捨てて芋屋をやっていたのかと思うと、妄爺が少し誇らしかった。

僕はヤクザが嫌いである。

それが変わる事は無いけれど。

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