それでも小池から貰った恐怖は拭えない。
恐怖は間違いなく伝染する。
誰だって怖い。
それを必死に押さえているのに…
変造カードをやる時は、その日の体調や精神的な問題で怖かったり、全然平気だったりする。
それでも毎日打ち続ける。
そうしていないと恐怖に飲み込まれそうになる。
外に出さないだけで、僕は誰より怖がりなのである。
その後ハーネスの取り付けはスンナリ成功した。
多分30秒掛かっていない。
完璧だ!
そう思い扉を閉めた。
しかし、台から一歩離れて見た、液晶画面は、なぜか黒かった。
ん?
配線ミスッた?
違う!
電源入れてない!
クソッ!
慌てて鍵を取り落とした。
台を開けてスイッチを入れるだけなのに…
鍵を拾い顔を上げる。
台から離れた小池側の通路から、なぜか店員が歩いて来ていた。
カッと火がついた。
僕は、考える間もなく、店員に向かって歩きだした。
台は僕の左後ろ。
店員があと少し近づけばクビを振るだけで台の異変に気付く。
いや…
台枠のランプも消灯しているので、クビなど振らなくても、今この瞬間にも気づかれる。
咄嗟に僕は右手が痛いように、大袈裟に手首から先を振りながら、自分の手だけを見つめて店員に近付いた。
僕の視線と右手に釣られろ!
そう願いながら。
向かって来る店員に話し掛けても不自然では無い距離に近づいて、初めて店員の顔を見た。
店員の目が、僕の右手を見ている。
引っ掛かった!
台の方を見てない!
確信した。
「食事休憩札ちょうだい」
そう言いながら店員を台とは逆に向かせる為に回り込む。
記憶していた離れた台の台番号を伝え店員を追っ払った。
恐怖など消えている。
お前らなんかに負けるか!
そう思っていた。
店員の行き先を確認してパチンコ台に戻り鍵を捻る。
電源をオンにした。
全てがチグハグだった取り付けが終わり、時計を見ると10時15分であった。
あとは小池に鍵を返すだけで終わる。
リュウ側の通路に出ると、すぐ横でリュウが二人のお客さんと話しをしていた。
随分ギリギリの所で止めたな…
でも助かった…
またオーケーマークを出した。
その後、小池を探して店内をうろつくが、小池がいない。
なんかあったか…
振り返るとリュウが見ている。
近付いて聞いた。
「小池は?」
「見てない。終わったの?」
終わった事を告げ、台の確認をするように言った。
小池がいない…
とりあえず外に出てリュウを待つ。
少しするとリュウが店から出て来て言った。
「台は打ってみないと分からないけど、多分平気だよ。小池はトイレから出て来たアルヨ…」
嘘だろ?
信じられなかった。
ホールに入ると、小池が反対の通路から、ヘコヘコしながらこちらに向かってくる。
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