コイツ…
元気になるの早いな…
僕は半日…
コイツは一瞬…
納得行かない!
「あっそう… だったらこれから、また打ち子入れるから」
部長が勝ち誇った様に言う。
「警察来てんだぞ! 全員捕まるだろが!」
「そんなの僕に関係ないよ。打ち子なんて使い捨てだから。お前が困るなら充分だよ」
部長の返事は無い。
更に僕は言った。
「打ち子も僕に義理なんか無いから、捕まったらガンガンと話し付いてたって簡単に喋ると思うよ」
返事は無い…
コーヒー奢んなかったからスネてんの?
仕方なく、もう一度聞いた。
「どうすんの?」
「分かったよ… 換金してやるよ… その代わりもう来ないでくれよ…」
部長は力無く言った。
抵抗すんな…
気付け…
お前の負けなんだ。
暫くすると打ち子の換金も全て終わった。
全てを諦めた部長は保身に走った。
警官が来ている以上、いつゴト師が捕まってもおかしくない。
捕まって店との関係を喋られるのを恐れたのだろう。
あっと言うまに換金作業を終えた。
この後ツルッパ達に玉抜きの時の情況を聞いた。
始まりはツルッパがホールの中を周り、打ち子達に【チャンスだ!】と言って廻る事だった。
打ち子はそのひと事に、待ってましたと言わんばかりに、玉抜きを開始した。
話しが完全に付いていると信じている打ち子に、ためらいは一切無い。
ひと箱抜いたら流す。
単純なロボットになった。
ホールの中はイッキに騒然とする。
一般のお客さんの視線が打ち子の上に注がれる。
しかし打ち子の周りには同じ事をする仲間がいる。
お客さんの目など気にしない。
集団心理も働いたと思う。
更に僕の予想とは違う幸運もあった。
計量器が詰まらない。
流すハジからすぐに玉抜きを再開出来た。
ホール全体の計量器に、途切れる事無く打ち子が向かう。
店員は誰がゴト師なのかの把握の為に、計量器前に分散して張り付いたと言う。
しかし店員は、自分の判断でゴト師を止める事はしなかった。
強引な打ち子が少し脅かすだけで計量を許した。
中には頑なに玉を流させない店員もいた。
しかしこれは僕が予想している。
「流させない奴がいたら黙って睨み続けろ。顔を出来るだけ店員に近づけて、怖くても目をそらすな」
歯抜け作戦ツルッパ睨みが作動して、頑な店員を退けていた。
更にツルッパは、カードを使い終わった打ち子に、余っているカードを配ると言う役も担っていた。
この日ツルッパは、与えられた仕事全てをソツ無くこなした。
おかげで僕は、ツルッパに五万円も、モギ取られた…
最終的に変造カードは一枚も余らなかった。
僕の予想を上回る時間で玉抜きは終了した。
あと百万は抜けたと言う。
お客さんがどの段階で警察に通報したのかは知らない。
しかし警察が到着した時には、玉抜きは完全に終わっていた。
レシート交換で揉めているだけだった。
少ない警察が出来る事は既に無い。
手持ち無沙汰で打ち子と店員のやり取りを見ているだけだったと言う。
誰一人、声を掛けられた者すらいない。
やり取りに飽きると、警官はガンガンの事務所へ入って行った。
その後事務所内で、どんな事情聴取が行われていたのかは、現場を離れた僕達には分からない。
この後、部長から一度だけ電話があった。
黙って聞くだけにした。
警官が横にいる可能性もある。
部長はしきりに、もう来ないでくれと言っている。
強気は一切無かった。
最後にどうしても一言、言いたくなった。
「気分で明日、行くかもよ」
そう言って電話を切った。
震えてろ…
しかしこの一言が僕に更なる儲けを運んだ。
部長との電話から数時間後、サンゾクの社長から電話があった。
「明日も行くんだって!?」
行かねーよ…危ないだろ…カードも無いし…
しかし、言えば部長に伝わる。僕より長く震えさせておきたい。
なぜなら僕は、性格が悪い。
更にサンゾクの社長にも、僕を怒らせるとヒドイ目に遭うと思わせておきたい。
「カード余ってるから、もしかしたら行きますよ。あいつ頭にくるし」
そう言った。
すると社長は思わぬ事を言った。
「私の取り分いらないから、もう行かないでやってくれよ!」
え?恐喝?
はっきり言って悩んだ。
まあいいか~と思い、行かない約束をした。
ゴト以外の悪さで自分が直接やった悪さはこれぐらいだった様に思う…
言い訳しちゃった編 完!
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