便所から出た僕の部長に対する感情は、怒りしか無かった。
半日ビビらされ続けた。
逆恨みなのは理解している。
それでも我慢出来ない自分がいた。
席に戻ると部長が言った。
「遅えな! 何やってんだよ!」
「クソだよ! いけねぇのか!!」
睨み合いになる。
部長の目が泳ぐ…
僕は店員を呼びコーヒーを頼んだ。
「んで、何の用?」
そう僕は聞いた。
驚く部長を黙って見ている。
部長の目付きは、頭のおかしい奴を見る目付きであった。
その時部長の携帯が震えた。
やばい…
店からだ…
電話に部長が手を伸ばす。
「話してる時に電話なんか出んなよ! なめてんのか、お前!!」
部長の目に殺意が芽生える。
電話を横に置いた。
「カード余ってるから、明日もやりたいんだけど」
そう僕は言った。
言い合いになる。
すぐに部長の電話がまた鳴った。
コイツ店に行かせない方が良いやと気付いた。
電話が切れたのを見計らい言ってみた。
「うるさいから電源切りなよ…」
気にしながらも部長は素直に従った。
部長は人として素直な人なのであろう…
それからは「明日やらせろ」や「名古屋でやらせろ」と言う僕に「駄目だ!」「すぐ帰れ!」の応酬が続いた。
その間、僕は、玉抜きがどうなっているのかだけが気になっていた。
結局僕は玉抜きを見ていない。
20分程すると僕の携帯が震えた。
部長など構わず出た。
ツルッパが言う。
「順調だぞ! 余ってたカードも皆に配った!」
力が抜けた…
「そうか」
それだけ言って電話を切った。
店員を呼んでコーヒーを頼む。
部長は騒ぎ続けている。
返事すらダルかった。
ゆっくりコーヒーを飲み終わった頃、ツルッパから電話が来た。
「デコスケ来たよ… どうする?」
不安そうに警察の登場を告げるツルッパ…
「何台?」
「一台… 二人乗ってる。あとチャリンコのお巡りも一人…」
「打ち子から余ってるカード集めて、お前は店離れろ」
「カードは多分もう無いよ…」
「多分じゃ駄目だ。一人づつ廻って確実に回収しろよ。そんでとっとと店出ろ。それと玉流せてる?」
計量機は、玉詰まりを起こしていないと言う。
更には店長らしき男が出て来て、渋々出玉を流させていると言う。
プッツン導火線の店での失敗を見た事が役にたった。
あの店では、全員が途中で出玉を計量機に流す事無く、玉抜きを続けた。
それにより玉の循環が完全に無くなった。
修理にも長い時間が掛かった。
途中で出玉を流し流しやれば、計量機が詰まっても直すのはたやすいと思っていた。
それは東京のサンゾクで見ていた。
流し過ぎも駄目だが、流さな過ぎも駄目だと考えた。
だから玉抜きで、ひと箱貯まったら流す。
そうする事により本物のお客さんかゴト師かの区別も付けづらい。
全てが上手く運んでくれた。
ツキは僕にあったと思った。
ツルッパとの電話のやり取りを聞いていた部長が、怪訝な顔をする。
アホめ…
終わったがな…
「今日は僕達、もう帰るから…」
すぐに部長が反応する。
聞いているのもダルいので教えた。
震える顔が見たかった…
「なんかお店、警察来てるみたいよ。行った方が良いんじゃないの?」
部長は慌てて自分の携帯に飛び付いた。
電話で状況を聞いている部長の顔は、段々と青ざめていく。
僕は殴られる予感に包まれた。
失敗した…
離れてから言えば良かった…
携帯を切った部長は、立ち上がり、青い顔で僕を見て言った。
「お前…」
続く言葉が出て来ない。
仕方ないので踏ん反り返り僕は言った。
「なんだよ!」
返事は無い…
部長は僕の横をスリ抜け出口へと向かう。
「おい! コーヒー代払って行けよ。お前に奢るつもりは無い」
店を出てツルッパと合流した。
「なんか玉抜きやってたのが、はっきりバレてる奴らが、レシート換金して貰え無いって言ってる」
「ふ~ん 警察は?」
「まだ居るけど事務所の中、行ったんじゃないかな?」
換金か…
部長脅かすか…
コーヒー奢って置けば良かった…
部長に電話を掛けたら、すぐに出た。
面倒臭いので、すぐ言った。
「レシート全員の換金しろよ」
警察の対応が甘いのだろう。
少し元気になった部長が吠えた。
「ふざけんな!!」
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