ホールに戻ると部長はすぐに、一人の店員を指さした。
「なんかあったらアイツに言え!」
そう言ってアイツと呼ばれた店員と少し話しをして、部長は事務所へと消えていった。
この店員は全てを聞いていたのであろう…
僕を睨んでいる。
睨むな…
怖い…
構わず一般の打ち子に伝えるように、東京の打ち子に言って廻った。
この段階で僕は成功を確信した。
2時までの間に、一般の打ち子が、お客さんに疑われて二人打てなくなった。
店員へのチクりまでは到らない程の疑いである。
僕も既に打っていない。
カードがあぶれる…
しかし嬉しい誤算で、玉抜きをする、一般の打ち子が何人かいた。
カードの減りは予定通り維持されて行く。
そして2時ちょうどに携帯が震えた。
僕はホールの外にいた。
電話の通話ボタンを押す。
部長が吠えた。
「時間だぞ! 全員帰らせろよ!」
「はい。わかりました」
そう答えて、電話を切った。
それだけである。
何もせずに、ただ時間が過ぎるのを待つ。
僕の戦いが始まった。
15分もすると、また携帯が震えた。
出ない…
しつこく携帯は何度も震え続ける…
何度目かの震えで通話ボタンを押した。
部長はやっぱり怒っていた。
「すんませ~ん。あと一人五千円ぐらいで終わるんで10分ぐらいで帰れます」
僕は、ソレだけ言って、返事も待たずに電話を切った。
切る時何か言っていた。
何度か携帯が震えていたがやがて止まった。
10分過ぎて取った電話は、サンゾクの社長からだった。
「何やってるの?!」
社長は、怒りの篭った声で言った。
「はぁ? ガンガンでパチンコしてますよ…」
部長め、チクったな…
下手に出るか脅かすかで悩んだ。
「向こうの部長からやめさせてくれって電話が来たよ! 何してるんだよ!」
「何って、パチンコだっての! カード余ってんだからしょうがないでしょ!」
ここまでやっちゃってる以上、今更下手もないな…
そう思ったら言葉が強く出た。
パチンコ屋なんぞ全部が敵で結構だ…
「とりあえずやめろよ!警察呼ぶって言ってるし!」
そう社長は言った。
「まだ千八百万分のカードが余ってるんですよ。やめられませんよ」
僕はサラっと嘘こいた。
「警察呼ばれたらどうすんの!」
呼ぶ訳ないだろ…
犯罪犯してんだから…
何、言いくるめられてんだよ…
それぐらい気付けよ…
面倒臭くなって来た。
「すぐやめるって言ってたって言っといて下さいよ。なるべく早く終わらすから」
返事も待たずに電話を切った。
2時半を過ぎた。
もう限界か?
次に部長から電話が来たら、玉抜きを開始するか悩んでいた。
カードは多分余る…
脇坂に電話を入れる事にした。
カードが余る場合、早目に教える約束をしていた。
「もしもし 僕だけど。 そろそろ限界だから玉抜きするよ。カードは多分大分余る…」
「なんでだ?」
そう脇坂は偉そうに言った。
「打ち子が足りないからだろ。40人じゃ少ねえんだよ」
すると脇坂が言う。
「遅刻してた奴らが5人来てるけど、間に合わねえか?」
もっと早く言えバカ!
とりあえず連れて来いと言った。
少しでも人数が増えるのは有り難い。
3時からの玉抜きは、30分で一人三万円出来ると予想していた。
三万円以上カードを余らせている打ち子のカードを回収するように東京の打ち子に伝えた。
カードの回収をしている間に電話が掛かって来ていた。
やかましい…
今それどころじゃ無い…
無視しか方法が思い付かない。
回収したカードは予想よりも多かった。
クソッタレ!
3時半まで引っ張るしかない…
無理か?
いや!
無理とか無い!
新しい打ち子に玉抜きのタイミングや、エラーの解除を教えてホールへ送り込んだ。
彼らは遅れた事で脇坂に脅かされている。
さらに儲けも少ない。
少しカードを多めに渡しハッパを掛けた。
「玉抜きになったら、誰に止められても、持ってるカードは全部使い切りなよ。絶対に捕まらないから。カード余らしたら君らが遅れたせいにするよ…」
その他の余ったカードは、全てツルッパに持たせるように指示をする。
準備は出来た。
しかし時間が欲しい…
あと40分…
嫌がる自分を叱咤して、部長へと電話を掛けた。
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