確認はしたが、全く信じてはいない。
ヤクザが約束守るなんて笑わせんなと思った。
ましてやケツ持ちが居ない事まで知られている。
カードが余れば確実に買い戻しの話しをされる。
失敗は出来ないと思った。
まあ失敗したら、今度は逃げたろ~とも思っていた。
このあと細かい作戦をお互いに確認して別れた。
脇坂から夜遅くになって「打ち子が揃った」と連絡が来た。
ほとんどが一般人であると言う。
失敗したら「一般人なんか連れてくるからだろ」と、ゴネる事に決めて寝た。
次の日の朝、集まった人数は40人程であった。
ゴネる材料がまた出来て気楽になった。
しかし40人とは言え、集めて見ると結構な数である。
不安はよぎるが覚悟を決めた。
死にはしない…
どうにかなるさと自分に言い聞かせた。
集まった人間が、殆ど一般人と言う事で問題はある。
女すら三人混ざっていた。
変造カードをするにあたって、どうしても避けられないのが、エラーカードである。
エラーが出たらサンドに鍵を挿して、ボタンを押して抜く。
ゴト師なら問題なく出来る。
サンゾクや海賊の時もエラーは当然出た。
しかし打ち子は、お客さんに疑われはしても、ハッキリばれた事など無い。
疑われた場合はエラーカードを抜いた後、台を移れば更に問題は無くなった。
様は簡単な事なのである。
ゴトを初めてやる時に、震える奴は沢山いる。
普段イキがっているとか、喧嘩が強いとか、死ぬ気で頑張るとかは、一切関係ない。
根が臆病なのだろう。
ゴトを始めた時、自分の本質に気付く。
先程までのイキがりは、ナリを潜める。
ただ震える…
ツルッパや歯抜けなどがそうであった。
普段なら笑いのネタなのだが、今回はその震えに付き合っている余裕は無い。
慣れるまで待てない。
前日に、何件もの鍵屋を廻って作らせた、サンド用の鍵を、一般打ち子に渡しながら説明した。
エラーカードの抜き方じたいには、みんな納得する。
「エラーが出ても慌てるな。店員は普通にしてれば絶対気付かない。ユックリした動きで鍵を捻れば問題ないから」
不安を口にする人には「捕まっても帰れるから平気だよ」と笑いながら言うようにした。
最後に言った。
「どうしても怖かったり震えるようなら、自分で抜かないで、僕のトコかコイツらのトコに来な」
そう言って東京組の打ち子を指さす。
話しは、お金で付けてある。
横に居たツルッパは僕から離れた…
ツルッパには無理だった…
しかしツルッパには重要な仕事を任せる事が決まっていた。
脇坂にも伝えていた作戦の確認を全員にして開始の時間を待つ。
この時、既に僕の手にはお金が乗っていた。
このまま打ち子連れて東京帰ろうかな…
そう少し思った…
軽い詐欺である。
そう思ったら、どうでも良いやと思えた。
【人の痛みは、100年耐える】
【やな事からは逃げろ】
僕の座右の銘である…
最低なのか?
最低でも良かったのだが、ヤクザ絡みだし、後々面倒なので打ち込みを決行する事にした。
僕の計算で行くと午後3時まで普通に打てれば成功であった。
その後玉抜きをすれば変造カードは使い切れる。
部長のホントの震えは、3時を過ぎてからだと思った。
少し同情する自分もいる。
しかしそれを上回る、ワクワク感は消せなかった。
午前10時の開店と共に、一般のお客さんに混ざり、打ち子達が続々とホールへと侵入して行く。
意外と呆気なく、普通にスタートをした。
僕はホールの真ん中の、カウンターの見える席に座った。
カウンターの監視と、エラーが出た場合の対処の為である。
大きな問題も無く時間が過ぎていく。
1時間を過ぎてエラー解除を頼みに来た打ち子は二人だけである。
東京の打ち子の所も同じぐらいだったであろう。
みんな、スンナリ解除してやっていた。
一般の打ち子も意外と普通な顔をして打っている。
単純にパチンコを楽しんでいるように見える。
仲間が沢山居る事と、捕まっても帰れると思っている事が、良い方に作用しているようである。
コイツらにガンガンが終わったら変造カード売れば儲かるな…
脇田に後で話そうと思った。
クソヤクザは鴨にしてやる…
二時間程経った時、カウンターに部長が出て来てコッチを見ている。
顔は既に怒りの形相であった。
気付いたな…
どうすんだい?
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