組織犯罪の始まり36

方法は先程のファミレスで考えた訳ではない。

サンゾクの社長が、僕達が玉抜きに使う列の設定を、一番悪くしていたのを知った頃から考え始めていた。

方法や手段など構わず、お金にした方が勝ちだと言う事は、社長が教えてくれた。

歯抜けの絡みもあるので、サンゾクでは出来ないと思っていた。

しかしガンガンなら出来る。

例え結果が失敗したとしても、僕は何も痛まない。

心の痛みなど当然のように無い。

時間が無かった。

ファミレスから出ると僕は即座に動き始めた。

やる事は簡単だった。

ガンガンで変造カードを使う人間を、出来るだけ沢山集めるだけである。

その集まった人間に変造カードを一枚二、三千円程で売る。

安全に打てる店とセットにすれば多少高くても確実に売れる。

なにもゴト師でなくても構わない。

一般人で充分である。

その多数の打ち子に最初は普通に打たせる。

多分すぐに何人かはバレるだろう。

しかし部長は、僕との約束があるから、すぐには捕まえない。

見逃せる間は様子を見る。

その間も多数の人間によって、変造カードは消化されて行く。

部長はそのうちゴト師の数に気づく。

全員捕まえる事が出来るか?

多分出来ない。

薄汚れた正義では警察も呼べやしない。

僕に喋られる事を必ず恐れる。

仕方なく目立つ奴や、お客さんにバレた奴だけを捕まえる。

この段階で捕まる奴が、二、三人を越えるようなら玉抜きを全員でスタートさせる。

二、三人を越えないようなら、まだ普通に打たせる。

一人、一人の持っている変造カードが、玉抜きで消化出来るような金額になったら、全員で玉抜きをイッキにスタートさせる。

ノンキな警察など敵ではない。

例え全て失敗しても、僕には余り関係ない。

変造カードを打ち子に売った段階で、僕の仕事は終わっている。

肝心なのは打ち子集めだと思った。

打ち子が集まった後にも多少の問題は残る。

ガンガンで打ち子が打ち始めてすぐに、玉抜きをしなければいけない状況になった時である。

玉抜きだけでは人数にもよるがカードが使い切れない。

高額でカードを僕から買っている以上、使い切れなければカードを引き取れと必ず言ってくるだろう。

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なるべく普通に打てる時間を増やすように僕は動かなければならない。

カードを引き取っていたのでは儲けが減ってしまう。

しかし最悪はカードを引き取れば良いかと考えていた。

頭の中の作戦は完璧なように思えていた。

作戦のキモである打ち子集めには、この時あてがあった。

ここが東京であるなら雪ちゃんや、それまでに知り合ったゴト師に声を掛ければ簡単に集まっただろう。

しかしここは静岡である

東京から人を呼ぶ訳には行かない。

現地で揃える以外にない。

現在の様に、ネットで詐欺師が、ゴト師希望者を募集する様な手口が流行っていない頃である。

僕は【揉め組】の【脇坂】に電話を入れて呼び出した。

揉め組と揉めた原因は、変造カードの事である。

海賊の前にあった喫茶店の亭主が、客で来ていた脇坂の若い衆に、僕達が少し変だと話した。

軽い世間話しである。

見慣れない奴らがよく海賊にパチンコを打ちに来ている。

その程度の物であった。

この若い衆が、ホールでたまたま打ち子の玉抜きに気付いた。

彼も裏ロムの打ち子などの経験があった。

トイレに立った打ち子を、若い衆は外に連れ出して脅かした。

この時、僕もホールで普通にパチンコを打っていた。

脅かされた打ち子が僕の所に来て言う。

「バレて脅かされました…」

マジで… 終わりか?と思った。

しかし僕を呼んでいると言う。

呼んでんなら、いくらか渡せば平気かな?と思いながら外へ出た。

駐車場の隅に立つ若い衆は、全くヤクザに見えなかった。

どう見ても未成年に見える。

「見ちゃった?」

笑いながら僕は彼に近づいた。

しかし彼は笑っていない。

「誰に断って… !」みたいな在りきたりな事を関西弁のような言葉で怒鳴って来る。

何言ってんだ小僧と思った…

少しカチンとも来ていた。

しかし見られている以上、なんとかお金でゴマかすしか無いであろう。

「そんな怒んなよ…」

そう言ったが彼の怒りは納まらない…

段々腹が立って来た。

「いくらかやるから見なかった事にしとけよ」

そう僕は言った。

更に怒った彼がつかみ掛かって来たので、つい殴った…

やべぇ…

終わったか…

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