組織犯罪の始まり35

その後の、この店を、ひと言で言うなら 悲惨 のひと言であろう。

ホールの中には、驚く事に20人近くのゴト師がいた。 

それらが全員、イッキに玉抜きをするのである。

30分もすると床一面はドル箱の山になっていた。

当然普通のお客さんもいた。

周りで突然起こった玉抜きタイムに驚いて呆然としている。

中には怖くなって、店を出ようとするお客さんもいた。

しかし自分の出玉を計量器に運んでも、計量器は既にパンクして機能をなさなかった。

玉を置いてホールを出れば、盗まれる可能性が高い。

誰にでも分かる。

周りはすべて泥棒なのである。

足元に積まれた箱は、どれが誰の物かすら、分かりづらくなっていた。

その内、計量器に玉が流されない事で、ホール全体の玉の循環が止まった。

一時間は経っていなかっただろうか…

ホールのほとんどの玉を吐き出した、玉抜きタイムは終了を告げた。

その間、店側は何の対策も取らなかった。

全てが終わった後に、店内放送が流れた。

「ただ今、ゴト師が多数当ホールに入り込んでいます。その為、計量にお時間が掛かります。大変申し訳ありません」

換金してくれるか心配であったが、換金を許す放送であった。

一般のお客さんも混ざっている以上、当然だったのかもしれない。

しかし店側の本心は多分違う。

早くこの状況をかたづけたかったのだと思う。

この場に警察に踏み込まれれば店がマズい。

ゴト師が何人も入り込んでいるのに見逃し続けていたのだから、カード会社には目をつけられていただろう。

警告も来ていたはずである。

この時の僕は、まだそんな事は知らず、必死に計量機を直す店員を見て笑っていた。

まさか一人のプッツンが、導火線に火を付けたとは知らないだろう、店員達がおかしかった。

少しすると、刑事ドラマの事件が終わった後にやって来るような、間抜けなパトカーがサイレンを鳴らしながら到着した。

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お客さんからの通報だったのだろう。

ホール側は、自分のクビを絞める通報などするはずがない。

パトカーは、一台来た。

捕まえる気など有りはしない。

通報した人間は、当然変造カードゴト師が沢山いた事を、伝えたはずである。

一台で何が出来る?

警察は、パチンコ屋相手の犯罪に、本気で対処したりはしない。

ホール側が捕まえた人間を、引き取りに来るだけである。

万引き犯と同じ扱い程度だと思う。

ゴト師逮捕は現行犯が基本である。

後に少し、偽造、変造カードに対しての法律が変わるが、この時期はそうであった。

この時も警官はダルそうな顔をしていた。

ホールには、まだドル箱を計量機に流せていないゴト師が沢山いた。

しかし犯罪行為は全て終わっている。

一人、一人の身体検査などやるはずも無い。

仮に、ゴトの真っ最中でも、余程確実でなければ逮捕する事はなかった。

ゴト師の数が多ければ、少ない警官では、何も出来ないのである。

ちなみに、このホールがどうなったのか書いておこう。

この日は何事も無く警察は帰った。

次の日も普通に営業していたので確かであろう。

それからも、何度も三人でお世話になった…

しかし三ヶ月程経つと、店は突然閉まってしまった。

2、3ヶ月の休みを挟んで、新装オープンしたホールには、現金機のサンドしか無くなっていた。

更に1年程すると、店は潰れた。 

プッツンの導火線編 完! 

ファミレスで部長と別れた僕は、突然忙しくなった。

部長は僕との別れしなに言った。

「怖くなったのか?」と…

内心カチンと来ていた。

明日は、お前が震えるんだ…

薄汚れた正義じゃ、僕に勝てない所を見せてやる…

絶対に成功させようと決意させる言葉であった。

この時僕は、良夫ちゃんが導火線を付けた店と、同じ事をしてやろうと思っていた。

偶然では無く、僕があの店と同じ状況を作ろうと考えていた。

僕を舐めた罪は重い。

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