その後の、この店を、ひと言で言うなら 悲惨 のひと言であろう。
ホールの中には、驚く事に20人近くのゴト師がいた。
それらが全員、イッキに玉抜きをするのである。
30分もすると床一面はドル箱の山になっていた。
当然普通のお客さんもいた。
周りで突然起こった玉抜きタイムに驚いて呆然としている。
中には怖くなって、店を出ようとするお客さんもいた。
しかし自分の出玉を計量器に運んでも、計量器は既にパンクして機能をなさなかった。
玉を置いてホールを出れば、盗まれる可能性が高い。
誰にでも分かる。
周りはすべて泥棒なのである。
足元に積まれた箱は、どれが誰の物かすら、分かりづらくなっていた。
その内、計量器に玉が流されない事で、ホール全体の玉の循環が止まった。
一時間は経っていなかっただろうか…
ホールのほとんどの玉を吐き出した、玉抜きタイムは終了を告げた。
その間、店側は何の対策も取らなかった。
全てが終わった後に、店内放送が流れた。
「ただ今、ゴト師が多数当ホールに入り込んでいます。その為、計量にお時間が掛かります。大変申し訳ありません」
換金してくれるか心配であったが、換金を許す放送であった。
一般のお客さんも混ざっている以上、当然だったのかもしれない。
しかし店側の本心は多分違う。
早くこの状況をかたづけたかったのだと思う。
この場に警察に踏み込まれれば店がマズい。
ゴト師が何人も入り込んでいるのに見逃し続けていたのだから、カード会社には目をつけられていただろう。
警告も来ていたはずである。
この時の僕は、まだそんな事は知らず、必死に計量機を直す店員を見て笑っていた。
まさか一人のプッツンが、導火線に火を付けたとは知らないだろう、店員達がおかしかった。
少しすると、刑事ドラマの事件が終わった後にやって来るような、間抜けなパトカーがサイレンを鳴らしながら到着した。
お客さんからの通報だったのだろう。
ホール側は、自分のクビを絞める通報などするはずがない。
パトカーは、一台来た。
捕まえる気など有りはしない。
通報した人間は、当然変造カードゴト師が沢山いた事を、伝えたはずである。
一台で何が出来る?
警察は、パチンコ屋相手の犯罪に、本気で対処したりはしない。
ホール側が捕まえた人間を、引き取りに来るだけである。
万引き犯と同じ扱い程度だと思う。
ゴト師逮捕は現行犯が基本である。
後に少し、偽造、変造カードに対しての法律が変わるが、この時期はそうであった。
この時も警官はダルそうな顔をしていた。
ホールには、まだドル箱を計量機に流せていないゴト師が沢山いた。
しかし犯罪行為は全て終わっている。
一人、一人の身体検査などやるはずも無い。
仮に、ゴトの真っ最中でも、余程確実でなければ逮捕する事はなかった。
ゴト師の数が多ければ、少ない警官では、何も出来ないのである。
ちなみに、このホールがどうなったのか書いておこう。
この日は何事も無く警察は帰った。
次の日も普通に営業していたので確かであろう。
それからも、何度も三人でお世話になった…
しかし三ヶ月程経つと、店は突然閉まってしまった。
2、3ヶ月の休みを挟んで、新装オープンしたホールには、現金機のサンドしか無くなっていた。
更に1年程すると、店は潰れた。
プッツンの導火線編 完!
ファミレスで部長と別れた僕は、突然忙しくなった。
部長は僕との別れしなに言った。
「怖くなったのか?」と…
内心カチンと来ていた。
明日は、お前が震えるんだ…
薄汚れた正義じゃ、僕に勝てない所を見せてやる…
絶対に成功させようと決意させる言葉であった。
この時僕は、良夫ちゃんが導火線を付けた店と、同じ事をしてやろうと思っていた。
偶然では無く、僕があの店と同じ状況を作ろうと考えていた。
僕を舐めた罪は重い。
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