組織犯罪の始まり34

ファミレスの席に座るなり、若い部長が怒った顔で言った。

「アンタ、うちの店見ただろ? 変造カードなんか打って貰わなくたって充分儲かってんだよ!」

ごもっともです…

しかし納得してる場合ではない。

終わってしまう。

勇気を振り絞って言ってみた。

「知らんがな。頼まれたから来たんだよ。ダメなら頼むな、ボケ!」

「…… 」
「…… 」

睨み合いになった…

怖いです…

しかし退いたらお帰りになる。

正義に負けたくないと強く思った。

先に僕が口を開いた。

「アンタが駄目って言ったってやらして貰うよ。 変造カードだって仕入れて来てんだから。帰ったら損するからね」


更に怒った顔になる部長…

なんかヤクザとか出して来そうな顔してたので先に脅した。

連続ヤクザじゃ悲しくなる。

「一つ言っとくけど警察とかヤクザとか出して来たら、オーナーと一緒にやって来た事、警察にみんな喋るからね」

部長は少し怯んだように見えた。

「そんな事したら君達も捕まるだろ!」

「構わない。舐められたままじゃ帰れない」

心にもない事を言った。

お前らなんかと心中出来るか…

どっちが出て来ても逃げるわいと思った。

少しすると正義がポキッと折れた。

オーナーのせいで、部長は完全なる正義にはなれなかった。

「勝手にやれ! でも店員に捕まった奴は入れるなよ!」

部長は捨てゼリフを吐いて席を立った。

その捨てゼリフが気になった。

片っ端から捕まえる気か?

変造カードを婆さん達と始めた頃に見た光景を思い出した。

ソレで行こうと瞬間で決めた。

ファミレスの出口に向かう部長に追い付いて僕は言った。

「明日一日でやめるから、捕まえるのは勘弁してよ」

部長は振り返り少し考える顔をした。

「明日一日だけなら見逃してやるよ。そのあと二度と来るなよ」

そう部長は言った。

「はい、分かりました。 点検無しですよ。それと… 店員に捕まったら帰して下さいね」

不安が伝わるように言った。

僕を小ばかにするような顔で部長が言う。

「なんだ? 怖くなったのか? ふん、明日だけだぞ!」

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そう言って部長は、肩をソビやかしてファミレスを出て行く。

その後ろ姿を、引っ掛かりやがったな、と思いながら僕は見ていた。

僕が婆さん達と見た光景は強く印象に残っていた。

東京の千葉県寄りのパチンコホールで、変造カードの、やり易い店があった。

その店には、いつも変造カードゴト師が、沢山入り込んでいた。

見逃しているのが噂になっていたんだと思う。

周りは、お互いに知らないゴト師ばかりである。

長く続けたいので、誰も玉抜きなどはしないで、大人しく打っている。

ある時、一人が派手な玉抜きをした。

みんなが迷惑そうな顔をした。

僕達も迷惑に思った。

お客さんにバレたら、店員は見逃しているとしても、嫌でもソイツを捕まえなければならない。

捕まえたとしても追い出すだけだったが…

それが僕達に波及する事が迷惑であった。

大人しくやれ バカ!と思って見ていた。

見るからに周りにバレそうなヘタな玉抜きのやり方である。

少しすると案の定、隣りに座ったお客さんに疑われ始めた。

その内、お客さんは確信したのか、店員の方へ歩き出す。

終わった…やりづらくなる…

今日はお帰りだ…

そう思った。

当然周りのゴト師達もそう思った。

ここで欲張りなプッツン良夫ちゃんが、導火線に火をつけた。

横を見ると、何を、とち狂ったのか猛然と玉抜きを開始している。

みるみる貸し玉が箱に貯まりだす。

僕は驚いて良夫ちゃんの顔を見た。

良夫ちゃんの口元が何かを言っている…

「チャンス チャンス」

どこがだよ~

意味がさっぱり分からない。

止められて追い出されるだけである。

次からやりづらい。

しかし婆さんは良夫ちゃんに忠実だった…

釣られて猛然と玉抜きを開始する。

なんでだよ~

ここで驚く事が起こった。

周りにいたゴト師達もプッツン二人に釣られ始めた。

一人、二人…

気が付けば周りに見えるゴト師達全員が、必死な顔で玉抜きを開始している。

更には見も知らぬゴト師が店中を周り、他のゴト師の耳元で「チャンス チャンス!」と言って回る。

店員達もこの時には気付いていたが、ゴト師の多さになす術なく立ちすくんでいる。

いつの間にか、本物のチャンスに切り変わっていた。

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