ファミレスの席に座るなり、若い部長が怒った顔で言った。
「アンタ、うちの店見ただろ? 変造カードなんか打って貰わなくたって充分儲かってんだよ!」
ごもっともです…
しかし納得してる場合ではない。
終わってしまう。
勇気を振り絞って言ってみた。
「知らんがな。頼まれたから来たんだよ。ダメなら頼むな、ボケ!」
「…… 」
「…… 」
睨み合いになった…
怖いです…
しかし退いたらお帰りになる。
正義に負けたくないと強く思った。
先に僕が口を開いた。
「アンタが駄目って言ったってやらして貰うよ。 変造カードだって仕入れて来てんだから。帰ったら損するからね」
更に怒った顔になる部長…
なんかヤクザとか出して来そうな顔してたので先に脅した。
連続ヤクザじゃ悲しくなる。
「一つ言っとくけど警察とかヤクザとか出して来たら、オーナーと一緒にやって来た事、警察にみんな喋るからね」
部長は少し怯んだように見えた。
「そんな事したら君達も捕まるだろ!」
「構わない。舐められたままじゃ帰れない」
心にもない事を言った。
お前らなんかと心中出来るか…
どっちが出て来ても逃げるわいと思った。
少しすると正義がポキッと折れた。
オーナーのせいで、部長は完全なる正義にはなれなかった。
「勝手にやれ! でも店員に捕まった奴は入れるなよ!」
部長は捨てゼリフを吐いて席を立った。
その捨てゼリフが気になった。
片っ端から捕まえる気か?
変造カードを婆さん達と始めた頃に見た光景を思い出した。
ソレで行こうと瞬間で決めた。
ファミレスの出口に向かう部長に追い付いて僕は言った。
「明日一日でやめるから、捕まえるのは勘弁してよ」
部長は振り返り少し考える顔をした。
「明日一日だけなら見逃してやるよ。そのあと二度と来るなよ」
そう部長は言った。
「はい、分かりました。 点検無しですよ。それと… 店員に捕まったら帰して下さいね」
不安が伝わるように言った。
僕を小ばかにするような顔で部長が言う。
「なんだ? 怖くなったのか? ふん、明日だけだぞ!」
そう言って部長は、肩をソビやかしてファミレスを出て行く。
その後ろ姿を、引っ掛かりやがったな、と思いながら僕は見ていた。
僕が婆さん達と見た光景は強く印象に残っていた。
東京の千葉県寄りのパチンコホールで、変造カードの、やり易い店があった。
その店には、いつも変造カードゴト師が、沢山入り込んでいた。
見逃しているのが噂になっていたんだと思う。
周りは、お互いに知らないゴト師ばかりである。
長く続けたいので、誰も玉抜きなどはしないで、大人しく打っている。
ある時、一人が派手な玉抜きをした。
みんなが迷惑そうな顔をした。
僕達も迷惑に思った。
お客さんにバレたら、店員は見逃しているとしても、嫌でもソイツを捕まえなければならない。
捕まえたとしても追い出すだけだったが…
それが僕達に波及する事が迷惑であった。
大人しくやれ バカ!と思って見ていた。
見るからに周りにバレそうなヘタな玉抜きのやり方である。
少しすると案の定、隣りに座ったお客さんに疑われ始めた。
その内、お客さんは確信したのか、店員の方へ歩き出す。
終わった…やりづらくなる…
今日はお帰りだ…
そう思った。
当然周りのゴト師達もそう思った。
ここで欲張りなプッツン良夫ちゃんが、導火線に火をつけた。
横を見ると、何を、とち狂ったのか猛然と玉抜きを開始している。
みるみる貸し玉が箱に貯まりだす。
僕は驚いて良夫ちゃんの顔を見た。
良夫ちゃんの口元が何かを言っている…
「チャンス チャンス」
どこがだよ~
意味がさっぱり分からない。
止められて追い出されるだけである。
次からやりづらい。
しかし婆さんは良夫ちゃんに忠実だった…
釣られて猛然と玉抜きを開始する。
なんでだよ~
ここで驚く事が起こった。
周りにいたゴト師達もプッツン二人に釣られ始めた。
一人、二人…
気が付けば周りに見えるゴト師達全員が、必死な顔で玉抜きを開始している。
更には見も知らぬゴト師が店中を周り、他のゴト師の耳元で「チャンス チャンス!」と言って回る。
店員達もこの時には気付いていたが、ゴト師の多さになす術なく立ちすくんでいる。
いつの間にか、本物のチャンスに切り変わっていた。
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