組織犯罪の始まり30

「やめてどうすんの? 僕はお前の面倒なんか見ないよ」

そう言うと泣きそうな顔をしていた。

人の事より、自分の先行きさえ見えていなかった。

この日僕は大量の変造カードを余らせていた。

最後の五日間のために仕入れていたからである。

雪ちゃんが間に居るとはいえ返品は効かない。

皆がファミレスで自分の稼ぎの話しをしている時も、僕は一人ブルーだった。

どうすんだよ これ…

サンゾクで使い切れるか?

あまり大量の変造カードを持って、都内に向かうのも良い気分はしない。

コイツらに高く売れねえかな?などと考えていた。

仕方なく解散しよと思っていると海賊の店長から電話が掛かって来た。

「あの~ 今日で終わりにしてくれってオーナーが言ってるんですけど…」

アホか?

頼まれたって行くもんか。

捕まるわ!

「それで、もう一つのお店の店長と話して、ソコでやってくれって言ってます」

え?

オーナー馬鹿?

そう思った。

なにを今更言ってんだ?とも思う。

カード会社からの警告は、海賊に居る店長の元に来てはいるが、カード会社にすればオーナーを疑っている。

儲けは全てオーナーの物なのである。

海賊に警察が内偵で来ている以上、オーナーの持つ、他の二店舗も疑いの対象である。

だから僕は、海賊と同時に、他の二店舗も手を付けたかったのである。

それなのにオーナーは僕を避けた。 

このオーナーは状況が見えていないのか…?

次の店舗に変造カードを打ち込めば、カード会社に言い訳出来なくなるぞ…

よし! 馬鹿は喰い潰す!

そう決めた。

分かりましたと海賊の店長に言って、次の店舗の店長の電話番号を聞いた。

長くやれば僕達がヤバイ事は分かっている…

しかし変造カードも余っている。

短期間勝負で充分だと思った。

この時期サンゾクもやめるタイミングを計っている時だった。


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「もう一軒あるかも知れん…」

打ち子に、それだけ言った。

ヤバイと言う事を教えると帰る可能性が高い。

みんな基本的に怖がりのゴト師である。

でもオーナーは、一緒のパチンコ屋だと言う事は伝えた。

気付いて帰るなら仕方ないと思った。

「オーナーが、一緒だけど…」

言ったらすぐバレた…

「それ危ねえじゃん!」

口々に言う打ち子達…

余計な事を言うんじゃ無かった…

少し成長してやがる…

危険が高い以上、払う金額も上げなければならない。

アホのままで良かったのに…

やはり三店舗のオーナーが、ソコに気付かない事の方が異常なのである。

助かる事に、誰一人帰るとは言わなかった。

全員参加が決まった。

新しい店の店長に電話をして、次の日の夜に会う約束をした。

場所は、浜松の駅に、ごく近い所であった。

店の名前を【ガンガン】とする。

一日半、時間が空いたので、東京へ新幹線で帰った。

ツルッパも組に「たまには顔出さないと」と言う事で一緒である。

サンゾクでの打ち込み終わりを待ち、店員を含めて全員でご飯を食べに行った。

妄爺の隣にベッタリと、なぜかハツコがくっついている。

なんだ?

コイツら?

付き合ってんの?

凄く嫌そうな妄爺の顔を見て、違う事に気付いた。

笑ってしまう。

ハツコの年齢を考えると信じられないが、周りの何人かはハツコを好きだったのでは無いだろうか…

コイツ頭イカれてますよ。

ババァだし、と教えてやりたかった。

ハツコは、映画の主演の記者発表の当日に、会場から逃げだした。

シンデレラガールと呼ばれる、スターに成る事が約束された、特別な扱いだったと言う。

会見を待つ間にプレッシャーで狂う病気が出た。

会場から走って逃げたと言う。

その後、事務所をクビになって、モデルをしていた。

何回もの結婚を繰り返し、僕と知り合った頃は、都内の一等地の豪邸に住んでいた。

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