カード会社からの訴えがあれば、暇な警察署なのですぐ動くだろう。
残された時間は余り無いように感じていた。
打ち込み始めて25日目に他の二軒を諦めた。
残り5日で打ち込めるだけ打ち込んで引き上げる事に決定した。
残り五日と決めた最初の日に事件は起こった。
打ち込む金額を300万円に切り替えると決めていた。
その為、普段は一人づつホールに入れていたのだが、打ち込む人間を二人に増やしている。
しかし守りも増やしていた。
警察署の近くに一人。
ホール駐車場に一人。
パトカーが、ここを曲がれば、ホールへ向かう可能性が、限りなく高くなる、交差点のコンビニに一人。
僕はコンビニにいた。
午後の1時過ぎに、警察張りの打ち子から、僕に電話が入った。
「覆面パトカーそっちに二人乗せて一台行きましたよ」
この時までには警察車両のナンバーまで全て掴んでいた。
覆面がパチンコ屋方面に向かって来る事は普段もある。
緊張はするが、たいした事ではない。
「はいよ~」と返事してボーっと道路を見ている。
来るなら10分掛からない。
警察張りの仲間が、ホール駐車場にも連絡を入れている。
少しすると警察張りの仲間から連絡が来た。
「また一台いきますよ!二人乗りです!」
一気に緊張が走った。
まだ僕の前の通りには、最初の一台は来ていない。
考える間も無くホールの打ち子を逃がす指示をした。
張り込み組は、全員がヤバイと言う事を確信していた。
ホールの駐車場の仲間が、打ち子二人を車に乗せて、逃走するのに時間は掛からなかった。
5分程過ぎた…
僕の目の前をパチンコ屋の方面へゆっくりと曲がる覆面…
一本道で覆面とすれ違うのを嫌がり、何件かしかない人の家の駐車場に車ごと隠れ、やり過ごす三人の仲間。
二台目の覆面も、僕の目の前をパチンコ屋方面へと曲がって行く。
覆面が、パチンコ屋の駐車場に、二台入った事を確認して、三人は民家の駐車場から出た。
バックミラーには、二人の男がパチンコ屋の建物を見上げている姿がうつっていたと言う。
みんな逃げ足は速かった。
みんなの無事を確認して、10キロ程離れたファミレスに集合する事にした。
僕はホテルで寝ていたツルッパを車に乗せてから、海賊の店長に電話を掛けた。
「警察来てますか?」
「どこに? みんなどこ行ったの?」
店長はノンキな事を言った。
それを聞いて、警察は、店を捕まえに来たのでは無く、僕達を捕まえに来た事を知った。
内偵だったのかもしれない…
僕達の存在だけ確認して、後日捕まえるつもりだったのか…
今となっては知りようもない。
「いま警察が店の周りにいるから、知らん顔で仕事しといて下さい」
驚く店長に平気だと言う事を伝え、打ち子が残した玉を片付けるように頼んだ。
「今日はもうやめときますけど、明日また行きますから」
そう言って電話を切った。
行く気など、当然無かった。
打ち子四人が待つファミレスに着くと、みんな少し興奮していた。
警察張りの打ち子は得意げに言った。
「俺が二台の覆面見逃さなかったからだ!」
駐車場張りの打ち子も、最初の電話で、ホールの二人の元へ行っていたと言う。
二度目の電話で、即座に二人を店から連れだした。
「だから覆面とすれ違わないで済んだ」
全ての手柄は自分の物のように言う。
それを聞いて、確かにギリギリだったんだなと胸を撫で下ろした。
しかし僕は言いたかった。
作戦考えた僕のお陰じゃねーの?と…
誰にも褒められない僕がいた…
ちっ!
しかし興奮の中にも残念そうな雰囲気があった。
今日で終わりな事は、みんな理解している。
こんなに楽な店は二度と無い事も…
更には、変造カードが終わりに近づいている事も感じ始めていた。
しかし、この時の皆の思いとは裏腹に、変造カードは驚異の粘りをみせる事になる。
海賊での儲けはハッキリと覚えている。
換金率の悪かった海賊で両替出来たのは、三千万円程であった。
海賊側の儲けは一千五百万円程だったろうか。
打ち子には、サンゾクよりも危険が分かっていた為、多めに渡している。
皆三百万円程度の稼ぎになっただろう。
帰りの車の中でツルッパが大喜びしていた。
「俺、組辞めようかな?」
そう仕切に言っている。
ヤクザになって初めてつかんだ大金だと言う。
ヤクザって儲からないの?と不思議に思った。
ツルッパはそれだけ使えなかったと言う事だろう。
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