従業員一同、まるで家族のような関係だったので、お店が無くなるのをとても悲しんでいた。
そこに僕達が来ると知って、みんなが喜んでいたと言う。
最後には「従業員一同全力で協力します!」と店長はペコリと頭を下げた。
どうなってんだ… これ?
良いのか?
悪いのか?
さっぱり分からなかった。
サンゾクよりは確実に玉抜きしやすいのは分かる。
しかしそれまで、一日の売上げが百万円前後だったお店に、玉抜きで百万も二百万も打ち込んだりして平気だろうか?
すぐにカード会社にバレるのでは無いか?
いくら忙しいカード会社でも、話しを付けてやっているのが確実な所は捕まえている。
ましてや海賊はタンボの中の一軒家である。
警察も内偵すらせずに突っ込んで来るのでは無いか?
目の前に、タンボを全速力で走っている自分が見えた…
打ち子は捕まらない事を条件に連れて来ている。
僕一人では決められ無かった。
「今日は取りあえず六人に十万円づつ打たせるから。店にも従業員さんにも慣れたいし」
そう店長に言った。
「もっと良いですよ」と言う店長に「こっちの都合もありますからお願いします」と断った。
そこからどうすれば安全に打ち込めるかを考え続けた。
この時一つ閃いた事があった。
夜に打ち子と話し合う事にする。
周りがどんどん捕まる中、この閃きが後にサンゾクでも、誰一人捕まらないで終われた要因になったような気がする。
打ち子を喫茶店から呼び出して、状況を軽く話し、みんなで海賊へ入った。
「玉抜きしないで普通に打ってね。今日は出した分、全部持って帰って良いから」
少し太っ腹な部分を見せた…
喜ぶ打ち子に更に言った。
「食費と交通費はそっから出してね」
どこかケチであった…
ケチちゃうわい!
こうして海賊でのゴトとは言えないゴトが始まった。
打ち始めてビックリしたのは店員の愛想の良さである。
みな笑顔だ…
少しすると打ち子全員にカップのホットコーヒーが配られた。
お客さん全員に配ってるのかと見渡せば、僕達だけにである。
やり過ぎだよ…
物凄く居心地がわるい。
しかし、敵が誰かと言う事だけは、ハッキリと認識出来た。
いつもとは違う。
直接警察とのやり取りだと思った。
何事も無く夜7時には打ち込みが終わった。
お客さんの数は僕達を除き、常時10人以下であった。
少し気になったのは、お客さんが見慣れない僕達に話し掛けて来る事ぐらいだろうか。
今まで変造カードを打った中で、一番気楽である。
出来れば長く続けたいと、思わず願っていた。
この夜、海賊から30分程の所にあったビジネスホテルに泊まった。
僕の部屋に打ち子を集め話しをする。
「海賊で玉抜きすると、捕まる可能性が出てくるけど、どうする?」
そう僕は全員に聞いた。
なぜ捕まるのか、みんな分かっていないようであった。
彼らは、カード会社がどう言う対応をして来るのかを余り知らない。
「あんなにやりやすい店無いだろ?」
などと言っている。
カード会社の対応と、警察の動きを僕の知っている限りで話した。
考え過ぎだと、みんなが言った。
コイツら~!
僕をビビりだと思ってやがんな~!
でも… 僕の考え過ぎか?
すぐにはカード会社も対応しないのかな?とも思う。
しかし僕は自分を信じた。
人の言う事を聞いて捕まりたくは無い。
一方的に海賊でのやり方を決めた。
ホールに入るのは一人づつ、二時間で交代。
普通に打たずに完全玉抜きで、一人三十万円使い切る。
打っていない人間は、その時間、警察署の張り込み、及びホール周りの見張り。
大袈裟だと不満が漏れる。
「大袈裟じゃないよ…」
細かく説明した。
ここは東京とは違う。
お客さんのいない店に、六人も見かけない人間が毎日入り続けて、玉を両替し続ければ、必ず噂になる。
その為、ホールには一人づつ入る。
時間は掛かるがそれで一日二百万円近く打ち込める。
そのうえカード会社は必ず早い対策をしてくる。
一人が少しづつ玉抜きすれば見逃す可能性は上がる。
最悪警察が踏み込んだ場合でも、捕まる人間は一人で済む。
一人でも捕まらせたく無いから警察署の前を張る。
警察署に大きな動きがあれば、この辺ならば必ず僕達のことだから、ホールの打ち子に連絡して逃がす。
都合の良い事に太い通りからホールまでは、見通しの良い一本道であった。
パチンコ屋の駐車場から周りが全て見渡せた。
時間が掛かると不満が漏れる…
嫌な奴は、お金を渡すから帰れと僕は言おうとした。
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