ボサッとしていれば喰われて終わる。
そんな世界である。
しかし僕は、くだらないゴマカしはしなかった。
いや、少しはした!
みんなするんだって…
僕は小池に更に条件を突き付けた。
「打ち子の取り分40%ね」
「えー!マジっすか!」
焦る小池…
小池の取り分が、30%しか残らない。
しかしこれは当然だった。
僕の取り分では無い。
実際に、打ち子に払う物である。
この当時、裏ロムの打ち子は、換金した金額の3分の1が取り分だと、なんとなく決まっていた。
それに大当たりを引くまでに使うお金や、交通費を合わせると40%ぐらいになる。
小池にそう説明した。
「結構儲かりませんね」
少し泣きそうである。
僕も同感だった。
例えば、裏ロムを仕掛けて、一日、十万円出すとする。
僕が三万、小池が三万、打ち子が四万である。
はっきり言って僕にはショボイとしか思えなかった。
どうでも良かったのである。
だから交渉は、自分の都合だけで進めた。
「まだ条件あるよ」
僕は小池に、そう言った。
小池は、絶望的な顔をする。
笑えた。
「お金じゃないよ。裏ロムのセットの仕方は教えないよって事」
そう笑いながら僕は言った。
「え? なんでですか?」
お前が信用出来ないからだ…
既にお前は犯罪者なんだ…
自分で気づいているのか?
僕は、お前のように間抜けでも、お人よしでもない…
黙って喰われる訳にはいかない…
全ての想いを飲み込んで小池に言った。
「打ち子はこっちで入れるんだから知る必要ないだろ?」
小池は少し考える顔をして言った。
「え~ 自分が勝手に打ち子入れるって事ですか?」
「違うよ。変な泥棒が入った場合、小池君を疑いたくないからだよ」
僕の言い分を聞いた時の、小池の残念そうな顔は、油断出来ない事を物語っているようだった。
僕は余り人を信用しなくなっていた。
とりあえずの話しは付いた。
しかしここまでは絵に描いた餅である。
まだ喰えない。
ここでネックになるのは小池の班長と言う低い役職だった。
サンゾクの班長と言う役職は、バイトの教育と管理だけの物である。
機械的な事は主任と店長がやる。
ホールが営業中の場合は、小池もパチンコ台の修理をする程度である。
この事は「裏ロムって手に入ります?」と小池に初めて聞かれた時に、聞いていた。
リュウから裏ロムの取り付け方を聞いた時、小池じゃ無理だなと思った。
取り付けに時間が掛かり過ぎるのである。
練習しても一台に10分は掛かるとリュウは言う。しかし方法はある。
封印を構わず破ってカバーを外す方法である。
そしてロムを取り替える。
練習すれば1、2分で出来る。
その後にコチラの用意した封印を隙を見てユックリ貼る。
お客さんが少ないとはいえこれを営業中のホールでやる。
他の店員が後ろを通るだけでバレるだろう。
小池に出来るのか?
「出来そう?」
「怖いですね~」
少し考えた小池は更に言う。
「練習すれば出来るかもしれません」
コイツには無理だと思った。
悪い事をするくせに怖いの危険のを先に口にする奴は、土壇場で必ず手が縮む。
…コイツは仲間じゃない。
捕まっても構わないと思った。
「分かった。じゃあ、2、3日後に練習してみよ。パチンコ台と裏ロム用意するから」
「分かりました。よろしくお願いします!」
そう小池は言った。
このお話しに何度か登場している【ハーネス】と言うのを覚えているだろうか?
呼び名はいくつかあって【ぶら下がり】等とも呼ばれていた。
形状は機種によって違うが、基本は15本程の配線の束である。
配線の束の両端に差し込み口が付いている。
長さが15センチ。
幅が5センチ。
厚みは配線の太さの二倍程である。
取り付け方はいたって簡単で、時間にすると1分掛からない。
取り付けるパチンコ台の方にも、着脱可能な同じ形の配線が付いている。
そのパチンコ台の配線をハズし、コチラのハーネスを取り付けるだけである。
セット方法は裏ロムと余り違いがない。
しかし初期の頃のハーネスは単発、確変を選べなかった。
裏ロムとの決定的な違いは、基板のカバーの外側に取り付けると言う事である。
封印は関係なくなる。
コメント