セットの中に出て来る数字は裏ロムによって全て違う。
裏ロムの数だけセット方法があった。
書いてあるのを見ると、ややこしそうだが実際にやると簡単である。
当然のように現在では、出来なくなっている。
台に裏ロムが付いているのが分かっていても、セット方法を知らなければ当たりを引く事は奇跡である。
セットしているのを後ろで見ていても、看破は難しい物だった。
ゴト師は、セットを見られていないか気を使う。
「これ一個いくら?」と僕はリュウに聞いた。
「出た時期と機種によっては違うヨ。 一番安くて5千円。高いのでも2万円はしないアルヨ」
普通の人の相場は2万から6万だと言った。
リュウが言うには、裏ロムを売るのでは無くてあがりを貰えと言う。
「裏ロムが手に入らない人は、それでも良いって言うアルヨ」
成る程~と関心していると、リュウは驚く事を言い出した。
まだビザがある頃に、自分で夜中にホールに忍び込んで、何件か裏ロムを取り付けたと言う。
「俺、鍵開けるの上手いよ。日本のセキュリティ会社なんか弱いアルヨ」
そう言って笑う。
お前って一体…
謎深き奴ではある。
この後、裏ロムについての様々な事を聞いて、メリットもデメリットもある事を知った。
更に、裏ロムの配線版の、ハーネスについても詳しく教わった。
僕はほんの少し、ゴト師の階段を上がったように感じた。
次の日の夜、小池とファミレスで会った。
前日に小池が僕にした裏ロムのレクチャーは、余り正確では無かった。
知ったかぶりの範囲である。
簡単に考え過ぎている。
まず、小池クラスの班長では、取り付け自体が困難である。
基板を守るカバーを、封印を破らずにハズすのには、結構な時間が掛かる。
馴れている人間がやったとしても、5分から15分は掛かった。
その後、裏ロムを取り付けて、カバーを閉めて、封印をキチンと貼り直す。
「小池がやるなら一台30分はかかル」
そうリュウは言った。
上手く取り付けられたとしても、更に問題がいくつもあった。
お疲れ~と言って、ファミレスに入って来た小池を迎えた。
小池も普通に挨拶をした。
嫌だから変な挨拶は直してくれと僕が言ったからである。
おもねる奴が嫌いだった。
ましてや小池は僕の鴨…
いや、お客さん。
普通に接してくれていないと、都合が悪くなった時に切り捨てづらくなる。
そんな風に思っていた。
「裏ロム手に入るよ」
今度は自信を持って僕は言った。
「マジですか!なら売って下さいよ!」
そうはいかん…
学習した…
売ったらそれで終わってしまう!
10個売ってもたいした金額にはならない。
喰いつけるだけ喰いつこうと決めていた。
「売るのはダメだよ。取り付けた後の上がりの何%かを貰うよ」
「え~そうなんですか~」
小池は残念そうである。
同情はしない。
なぜならお前は喰われる立場の店員なのだ…
「何%ですか?」
不安そうに小池は聞いた。
100%!
そう言いたかった。
しかし、 頭がおかしいと思われるので相場を言った。
「30%…」
これは安い方である。
小池は少し考える顔をしながら言った。
「それぐらいなら良いですよ」
いや、学習した僕を甘く見るな…
まだ条件はある。
「それと取り付けた後の打ち子はこっちで入れさせて貰うよ」
「それはお願いしようと思ってたんですよ」
間抜けにも小池は人の良い事を言った。
信用が置けない者同士が組んでやる為の、一番大事な部分である。
なぜなら換金したお金を一番先に触るのが打ち子だからである。
もしも小池の打ち子が入って、お金をゴマカしたりしても僕には気づけない。
一緒にホールに入って、打ち子の出した金額を見張っている訳には行かない。
小池と小池の打ち子がグルになってゴマカしても同様である。
僕の打ち子が入ればその心配は無い。
僕の打ち子には、裏ロムを取り付けたのは店の奴だ、とでも言って置けば出玉数をその誰かに見られたかも知れないと思う。
打ち子は、バレる危険を犯してまではゴマカさないのが普通であった。
バレれば打ち子としては終わるからである。
のちにとんでも無い打ち子は現れたが、それは先の話しである。
僕の打ち子が入った場合、ゴマカす事は簡単だった。
小池が店に居ない時間に、出せば良いだけである。
その大事な部分を小池は気づいていない。
だからアッサリとOKを出した。
ゴト師を信じるなど間抜けであった。
僕が犯罪者と言う事を忘れてはいけないのに…
犯罪者を相手にしていて人が良いとか素直とか言うのは、アホの証明である。
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