組織犯罪の始まり18

今でも忘れられない光景がある。

外階段を上った先に暗い扉がある。

外灯が扉を照らしていない。

そこに扉が存在するのかすら分からない、漆黒の闇である。

絶望を感じながら、その扉を見上げる男がいた。

その扉であろう位置に、糸のような光りが漏れ始める。

やがて光の量が洪水のように溢れ、一人の男が外へ出た。

次に出た小さい影が、扉の内側に向かって深くお辞儀をする…

なんて事ない プッツン親子だ!

驚く事に婆さんは、僕が教えた方法をアレンジして良夫ちゃんを助け出した。

それは僕が突っ込んで行くよりも正解だったと思う。

この婆、なかなか侮れん。

結局僕は空回りだった…

くるくるぅ~って…

疲れます。

しかし良夫ちゃんは、もっと疲れているようであった。

捕まった時の抵抗が見て取れる恰好である。

髪の毛はグシャグシャでシャツは破け、上に羽織った薄手のジャンバーは、袖が肩口から取れていた。

なぜかズボンのチャックも開いている。

前回捕まった時の、良夫ちゃんの抵抗する姿を見ていた僕は、今回の抵抗を想像して、笑いが止まらなくなった。

まるで雨に打たれたビチョビチョの、うなだれたノラ犬のようである。

完全なる負け犬に見える。

笑いながら、おつかれ~と言って二人を迎えた。

良夫ちゃんの後ろから平然と歩いてくる婆さんを見た時、この婆さんはスゲエ奴だなと思った。

リュウが、はしゃいで騒ぎまくっている。

「スゲェーよ!スゲェーよ!スゲスゲーよ!!」

お前は…

黙れ…

ウザい。

この後聞いた救出劇には、呆れはしたが拍手を送りたい。

良夫ちゃんは抵抗が激しく、五人の店員に取り押さえられていた。

その際に服が破けている。

事務所に連行される時は、五人掛かりで担ぎ上げられたと言う。

その後事務所で地べたに正座させられ、尋問が始まった。

ここでなぜか良夫ちゃんは完全黙秘を貫いた。

「謝ったりしなきゃ警察呼ばれるじゃん?」

「スキが出来たら逃げようと思ったから、名前もなんにも言わなかったです」

完全なる勘違いである。

抵抗しているんだからスキも出来ないし逃げられもしない…

やはりどこか抜けている。

しかしこれが後に良い結果を生んだのかもしれない。

しかし、まだまだ良夫ちゃんには不幸が降りかかる。


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良夫ちゃんが抵抗した際、一人の店員のシャツも破れている。

その店員が、黙秘する良夫ちゃんに腹を立て、髪の毛を掴み、頭をグリングリン回した。

それでも喋らないので、横っ面まで張り飛ばされた。

随分酷い店ではある。 

ここまで聞いて我慢出来ずに吹き出した。

勘違いで黙秘して、ここまでされている良夫ちゃんがおかしくて仕方なかった。

笑う僕を見て、まわりはドン引きしていた…

この後ホール側は、良夫ちゃんの処置に困ったんだと思う。

服はビリビリ、横っ面まで張っている。

警察を呼べば自分達も多少はまずい。

しかし協議の結果、黙秘している以上警察を呼ぶ事に決定した。

良夫ちゃんはパトカーの中から逃げる事を考えたと言う…

無理です…

絶対に。

調度その時婆さんが、ホールの店員に連れられて事務所に上がった。

僕との電話で、パトカーが来る前なら助かると判断した婆さんは、僕を待たなかった。

謝って許して貰おうと思った。

事務所に入って良夫ちゃんのカッコを見た時、婆さんは謝るのはやめにした。

頭に来たと言う。

そこで婆さんは、その時持っていた変造カードを三枚事務所の店員に見せ「お宅の店の前でみんなに売ってる人から買った。店員だった。それを息子にあげた」と言い張った。

「それ変造カードだよ」と店員に言われたが「そんなの知らないです。息子に手を出した事で訴えます」と言い返した。

店側は年寄りのケンマクに焦ったんだと思う。

三枚の変造カードを買い取るから許してくれと言った。

さらには、良夫ちゃんの洋服代も取って来た…

恐喝である。

僕が婆さんに教えた助かる方法とは【店員から買った】と【ボケたふりしろ】である。

変造カードと知らずに定価で買ったと言えば、逆に被害者と見られる可能性はある。

さらにボケたふりをすれば完璧だ。

店員から買ったと言えば、ボケを強調できる。

年寄りだからそれで通ると思った。

ただそれは自分が捕まった場合である。 

まさか助けるのに使うとは思わなかった。

それでも婆さんには、もうゴトはやめて欲しかった。

しかし言っても無駄だと思い、言いはしなかった。

こののち僕は、新しいゴトをする時何度もこの店を的にした。

やりやすい店だと情報を流し、ゴト師を集める事もした。

その度に、ザマアミロと思い続けた。

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