組織犯罪の始まり14

まあ良いかと思い僕もパチンコを打ちながら玉抜きを開始した。

大当たりを引いた方が、玉抜きをするのは目立たない。

当たっていないのに玉が増えるより、当たっていて玉が増える方が、ある程度自然である。

これまでは、一人打ち込む金額が二十万円と少なかったので、大当たりを引いた打ち子が優先で玉抜きをしていた。

しかし今日から、打ち込む金額が上がっている。

カードの枚数を見てビビってもいる。

焦っている打ち子達は、大当たりなど関係なく玉抜きを開始した。

当然僕も開始した。

お客さんが少ない内に、どれだけ玉抜き出来るかが勝負である。

貸し玉ボタンを押す度に、みるみる玉が貯まっていく。

お客さんがいない間は、ひと箱大盛りになると、小池なり主任が、その箱を運んで計量機に流す。

計量機に流すハジから新しい箱が出来る。

小池達はいきなりトップスピードの仕事量になった…

流しても流しても箱が出来上がる。

しかし小池達は通常の業務もこなさなければならない。

一時間もすると小池達に疲れが見え始めた。

それでも誰一人玉抜きをやめない。

みな追い込まれているのだ…

抜いて抜いて抜きまくる。

「小池!小池!」と呼びつけて、流すのを催促する奴まで現れる…

そのうちみんなが「小池!小池!」と呼び始める。

それはさながら【小池】の大安売りのようであった。

そのうえこの店は玉の循環が悪かった。

計量機に大量の玉を流し続けると玉の循環が止まった。

計量機が玉を受け付けなくなるのであった。

この日も止まった。

この玉詰まりを主任がなおしに掛かる。

閑古鳥が鳴いていたホールなので、設備にお金を掛けていない。

直すのには時間が掛かった。

それでも誰一人玉抜きをやめない。

みな追い込まれているのだ…

そのころチラホラお客さんが付き始めていて【小池!】とは声に出せない。

みんなが小池をニラんで目で脅す。

心の中では【早くしろ! 何やってんだ小池!】とみんなが思っていた。

焦った小池は、隣の計量機に箱を持って走る。

流して戻ると、また目で脅される。

小池は一人、戦場の前線で戦っていた…

しかし彼は、決して強い戦士では無かった…


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少しすると腹を抱えた小池が「すいません トイレ」と言って、打ち子の後ろを通り過ぎて廻った。

早よ戻れ! バカ!

そう、みんな思ったと思う。

弱っちい戦士が戦線を離脱した…

構わず玉抜き続行。

倒れた奴に構っている暇はない。 

10分経っても小池が戻らない…

ん? 何してんだ? あのバカ!

そう思った。

多分、皆が…

それから少しして、小池が戻って見た光景は、あたかも人気コーナーのように積み上げられたドル箱の山だった。

小池ーー!

てめーー!!

クソなんかしてんじゃねーー!! 

この弱っちい戦士のおかげで、僕達の上にも不幸が降りかかろうとしていた。

何を勘違いしたのか、活気のある人気コーナーだと思ったお客さん達が、僕達の列でパチンコを打ち始めた。

見渡せば玉抜きが出来る状況は消えていた。

ここからは長く苦しい戦いとなった。

八割方お客さんで埋まった列での玉抜きはきつい。

大当たりが来るまでは普通に打ち、当たりに乗じて玉を抜く。

単発なのに二箱にしたりする。

連チャンが確定する、確変が引けたらテンション上がる。

大当たりは三連チャンで止まったとしても、玉抜きをからませて八箱ぐらいにする。

当然不自然なので台移動をする。

玉を計量機に運ぶ為、近づいて来た小池をニラむ事は、誰も忘れない。

クソなんかしやがって!!

ジリジリとしか減らないカードに焦りがつのる。

打ち子は使い切った枚数によって取り分が決まる。

仲良く一人十万円では無い。

余らせれば誰かがそのカードを引き受ける。

当然取り分が増える。

こうなるとサバイバルの様相をていして来る。

人よりも一枚でも多く玉抜きしようとする奴が現れる。

やりづらくなった列を離れて、すいている列で玉抜きをするのである。

当然小池や主任はいない。

他の店員にバレれば悪くするとクビである。

それでも安全な列を飛び出した奴がいた!

なぜか僕である。

ビクビクやってられるか!

打ち子に給料払うぐらいなら自分で出す!

そう思った…

お金が欲しかった…

僕と言えども、他の店員に見つかれば、この店では打てなくなる。

条件は打ち子と何も変わらない。

六十万円ぐらい玉抜きしてまわりをビビらせてやる!

亡者健在なり…

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