まあ良いかと思い僕もパチンコを打ちながら玉抜きを開始した。
大当たりを引いた方が、玉抜きをするのは目立たない。
当たっていないのに玉が増えるより、当たっていて玉が増える方が、ある程度自然である。
これまでは、一人打ち込む金額が二十万円と少なかったので、大当たりを引いた打ち子が優先で玉抜きをしていた。
しかし今日から、打ち込む金額が上がっている。
カードの枚数を見てビビってもいる。
焦っている打ち子達は、大当たりなど関係なく玉抜きを開始した。
当然僕も開始した。
お客さんが少ない内に、どれだけ玉抜き出来るかが勝負である。
貸し玉ボタンを押す度に、みるみる玉が貯まっていく。
お客さんがいない間は、ひと箱大盛りになると、小池なり主任が、その箱を運んで計量機に流す。
計量機に流すハジから新しい箱が出来る。
小池達はいきなりトップスピードの仕事量になった…
流しても流しても箱が出来上がる。
しかし小池達は通常の業務もこなさなければならない。
一時間もすると小池達に疲れが見え始めた。
それでも誰一人玉抜きをやめない。
みな追い込まれているのだ…
抜いて抜いて抜きまくる。
「小池!小池!」と呼びつけて、流すのを催促する奴まで現れる…
そのうちみんなが「小池!小池!」と呼び始める。
それはさながら【小池】の大安売りのようであった。
そのうえこの店は玉の循環が悪かった。
計量機に大量の玉を流し続けると玉の循環が止まった。
計量機が玉を受け付けなくなるのであった。
この日も止まった。
この玉詰まりを主任がなおしに掛かる。
閑古鳥が鳴いていたホールなので、設備にお金を掛けていない。
直すのには時間が掛かった。
それでも誰一人玉抜きをやめない。
みな追い込まれているのだ…
そのころチラホラお客さんが付き始めていて【小池!】とは声に出せない。
みんなが小池をニラんで目で脅す。
心の中では【早くしろ! 何やってんだ小池!】とみんなが思っていた。
焦った小池は、隣の計量機に箱を持って走る。
流して戻ると、また目で脅される。
小池は一人、戦場の前線で戦っていた…
しかし彼は、決して強い戦士では無かった…
少しすると腹を抱えた小池が「すいません トイレ」と言って、打ち子の後ろを通り過ぎて廻った。
早よ戻れ! バカ!
そう、みんな思ったと思う。
弱っちい戦士が戦線を離脱した…
構わず玉抜き続行。
倒れた奴に構っている暇はない。
10分経っても小池が戻らない…
ん? 何してんだ? あのバカ!
そう思った。
多分、皆が…
それから少しして、小池が戻って見た光景は、あたかも人気コーナーのように積み上げられたドル箱の山だった。
小池ーー!
てめーー!!
クソなんかしてんじゃねーー!!
この弱っちい戦士のおかげで、僕達の上にも不幸が降りかかろうとしていた。
何を勘違いしたのか、活気のある人気コーナーだと思ったお客さん達が、僕達の列でパチンコを打ち始めた。
見渡せば玉抜きが出来る状況は消えていた。
ここからは長く苦しい戦いとなった。
八割方お客さんで埋まった列での玉抜きはきつい。
大当たりが来るまでは普通に打ち、当たりに乗じて玉を抜く。
単発なのに二箱にしたりする。
連チャンが確定する、確変が引けたらテンション上がる。
大当たりは三連チャンで止まったとしても、玉抜きをからませて八箱ぐらいにする。
当然不自然なので台移動をする。
玉を計量機に運ぶ為、近づいて来た小池をニラむ事は、誰も忘れない。
クソなんかしやがって!!
ジリジリとしか減らないカードに焦りがつのる。
打ち子は使い切った枚数によって取り分が決まる。
仲良く一人十万円では無い。
余らせれば誰かがそのカードを引き受ける。
当然取り分が増える。
こうなるとサバイバルの様相をていして来る。
人よりも一枚でも多く玉抜きしようとする奴が現れる。
やりづらくなった列を離れて、すいている列で玉抜きをするのである。
当然小池や主任はいない。
他の店員にバレれば悪くするとクビである。
それでも安全な列を飛び出した奴がいた!
なぜか僕である。
ビクビクやってられるか!
打ち子に給料払うぐらいなら自分で出す!
そう思った…
お金が欲しかった…
僕と言えども、他の店員に見つかれば、この店では打てなくなる。
条件は打ち子と何も変わらない。
六十万円ぐらい玉抜きしてまわりをビビらせてやる!
亡者健在なり…
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