綺麗な雪ちゃんがいた。
何かいけない所に入り込んだ気がした。
「いらしゃい。日本人招待するの初めてアルヨ」
そう言って、百万ドルの笑顔を見せる。
招待?
そんなもん僕も初めてだ…
ゴトよりも緊張し始めた。
出された料理は、どれも高級そうだが、ビビる物ばかりであった。
僕は食べ物の好き嫌いが激しい。
何かの動物の手だの足だの、形で分かる物が多い。
全く食えない…
香辛料?も日本で使われている物では無い。
匂う物も苦手である…
料理を口に運ぶ時、これ何の手だ!これ誰の足だ!と震えていた。
その度に雪ちゃんとリュウが聞く。
「おいしい?」
「うまい?」
うん、うんと頷き、無理矢理飲み込む僕がいた。
頼む…
帰らせてくれ…
ただ彼等の為に言っておくが普通の人なら喜んだと思う。
フカヒレもあったし、アワビステーキもあった。
どれも僕は嫌いだが…
やっとの事で食べ終わり、出されたお茶にも驚いた。
コップにお茶っ葉を直接入れてお湯を注ぐだけである。
表面に葉っぱがいっぱい浮かんでいる。
匂いも嗅いだ事が無い種類だった。
お前ら…
葉っぱも飲むのか?
「少し待って上澄みを飲むんだ」
そう教わった…
しかし今だに僕は信用していない。
急須、〇国にもあるじゃん!と思う。
少しするとリュウが見せたいと言っていた物をいくつか持って来た。
一つはドアのノブを板に張り付けた物。
あとの二つは、ゴト道具だと言った。
この時雪ちゃんは隣りの部屋に行かされていた。
「まずこれから見テ」
リュウは板にドアノブが付いた物を取り上げた。
今なら誰でも知っているピッキングの練習道具である。
この時から、二、三年後に、空巣が大流行する事になる。
この時は、何をするのかが分からなかった。
リュウは鍵が掛かっているのを僕に確認させて言った。
「見ててネ」
見ていると、鍵穴に、二本の針金のような道具を挿して何やらやっている。
なんだコイツ…
泥棒か?
そう思いながらも僕はジッと見ていた。
そんな物で開くのかと言う興味からである。
それが簡単に開いた。
二分掛かっていない。
「簡単でしヨ?」
うん、としか言えないだろ…
ただ、内心軽蔑していた。
それやったら泥棒じゃねえか!
そう思った。
リュウが言う。
「お前もこれ覚えたいカ?」
「は??なんで??良いよ、そんなもん!」
軽蔑が僕の言葉を強くした。
リュウは驚いた顔をしながら言った。
「なんで? 今お前達がやってる事と同じだロ?」
そのひと言に、頭を強烈にハンマーで殴られた感じがした。
僕の中で何者かが、違う!!と叫んでいた。
違わなかった…
考えても考えても違いが分からなかった。
そうだ…
僕は泥棒なのだ…
方法が違うだけの泥棒なのだ。
これまでも頭では理解している積もりであった。
しかし、このひと言で、はっきりと自覚した。
僕は、まぎれもない泥棒なのだと。
コイツ…
カタコトのくせにキツい事言いやがって…
言葉には出さなかったが、リュウは僕の気持ちを何か感じているようであった。
「ごめんヨ、お前はこう言うの嫌なんだな。でも変造カードはそのうち終わるヨ。その時どうする?」
そう言って笑った。
「それまでにいっぱい稼いで遊んで暮らすよ。パチンコ以外の悪さは、したくないんだ…」
この後、数々の悪事の誘惑はあった。
ゴトよりも安全でお金になる事も…
その時、いつも僕は【ゴト以外の悪さはしない】と答えるようになった。
同じ泥棒でも、何かが違うと思いたかっただけだった。
「そうか… だったらこっち見るアルヨ」
そう言って、二つのゴト道具を僕の目の前に置いた。
どうでも良いから帰りたかった。
机に並べられた道具は二つ。
全く見た事は無い。
リュウが説明した。
一つは、ギン〇ラと言われる人気パチンコ機種の、電波で当たりを引く機械だと言う。
使い方の説明を細かくされた。
リュウの言う通りならば結構稼げるなと思った。
もう一つは、ただの配線の束のように見えた。
「俺達はハーネスって言ってル。裏ロムって知ってル?」
「聞いた事はあるよ。パチンコ台の、どっかに取り付けて当たりを引く奴だろ?」
その裏ロムの配線版がハーネスだと言う。
裏ロムとの違いは、取り付け時間と、取り付け場所だと言う。
取り付け後の強制的に当たりを引く方法を聞いて、ホントかと、つい聞いていた。
コメント