組織犯罪の始まり7

◯クザを甘く見すぎていた。

待ち合わせたファミレスで社長を見つけるなり、ポンコツはエンジン全開になった。

社長の座る目の前のテーブルを、挨拶する間もなく、力いっぱい蹴り飛ばし、テーブルだけをぶっ倒した。

物凄い音である。

すぐさま、おののく社長の胸倉を掴み チュウするのか、と思うぐらい顔を寄せ、何を言ってるのか分からない抜けっ歯で、怒鳴り捲くる。

夕食時の、混み合ったファミレスが一気に凍り付く。

僕もその場で凍り付く。

少しすると歯抜けは落ち着いたのか、店員をデカイ声で呼んだ。 

ビビりながら寄って来た店員に、歯抜けは、負け犬らしからぬ声で吠えた。

「テーブル片付けろ!大丈夫や!友達だから、ふざけただけや!警察なんか呼ぶなよ!店中ひっくり返すぞ!そんでコーシー三っつ!」

コーシー?

三つ…

嫌だ…嫌過ぎる… 

そんな原始的な方法しか思い付かない、お前が嫌だ…

「おい、こっちや、こっち」

そう優しく僕を手招きする歯抜け。

帰りたい…みんな見てるし…

仕方なく席に着いた。

恥知らずって怖い…

しかし社長には効果的面であった。

確かにやられた方にしてみればビビる…

警察も呼ばれていないようである。

コーシーを飲み終わる頃には、僕達の都合の良い形で話しが付いた。

社長は意外に若く、まだ40代前半であった。

身なりも整っている。

なぜ歯抜けと付き合うのかを聞きたくる。

この後、店を代えて三人でご飯を食べながら細かい部分をつめた。

三日後から再スタートが決定した。

僕の出番はどこにも無かった。

早速打ち子集めをしなければいけなくなった。

店員には社長が小遣いをやって話しをすると言っている。

何人かの店員は大丈夫らしい。 

それでも今日捕まった打ち子はやめてくれと言われていた。

やはりそうなった。

仕方のない事である。

景品カウンターの前に立たされていたのだから、少ないとは言え、何人ものお客さんに顔を見られている。

雪ちゃんの所に何人かいないかなと思い、また電話をしたらリュウが出た。

なんだ…お前か…国帰れよ…

社長との話しを少しだけ説明して日本人の打ち子五人を捜している事を言った。

「大人しい日本人四人は必ず見つけるから、俺も入れてくれないか?」

そう何語だか分からない言葉でリュウが言う。

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確かにリュウは捕まってはいない。

しかし間違いなく変造カードを打っていたのは店員にはバレている。

何人の店員をこちらに引き込めるかまだ分からない。

引き込め無かった店員に見られれば、すぐにリュウはまた目を付けられるだろう。

そうリュウに説明した。

「俺、髪型変えるよ。色も舐めるし眼鏡もカブル」

訳がわからない。

打ち子のあて無いしな…

良夫ちゃんがダメだから婆さんも来ないしな…

悩んでしまった。

電話に雪ちゃんが出た。

「お願いアルヨ」

可愛く頼まれた。

「良いよ良いよ!髪型だけ変えて!」

口が勝手に言っていた…

「ありがとう。ご飯も食べに来て。約束アルヨ」

そう言われ、約束までしてしまった…

僕って…スケベ?

電話を切って30分後に雪ちゃんから電話が来た。

「四人見つかったから明日面接出来ますカ?」

速い…

この後も頼むとすぐに人を集めてくれた。

雪ちゃんも僕がリュウを助けたと勘違いしていた。

婆さんに、この前のファミレスで、リュウが聞いたのだろうが、良夫ちゃんを助けた事も知っている。

何度か二人に言った。

「違う、勘違いだ」

「お前は、けんそんして偉いナ」

そう言われた…

二人の中の僕は、優しい人になっていた。

めんどくさいし、損にはなら無いので放っておいた。

僕の頭の中には、どうやって稼ぐかしか無かったのだが。

次の日、四人の面接をした。

みんな問題が無かったので、そのまま決定した。

面接が終わるとリュウに言われた。

「ご飯食べに来て。雪が作って待ってるアルヨ」

飯ぐらい自分で食えるよ…

マジで嫌なんですけど…

そうは思ったが、見せたい物もあると言うので興味は無かったが仕方なく行った。

家は新宿の繁華街から近い3LDKのマンションだった。

お前…

お金持ちか?

どう見ても家賃20万円以上は掛かりそうである。

驚く僕を見てリュウが言う。

「雪が借りてるんダ。彼女はお金持ちだ。俺は仕事もお金もなイ…」

ひもか?

ろくでなしめ!

「だからどうしても仕事が必要なんだ。俺は不法滞在だから仕事を選んだり出来ないんダ…」

少し悲しそうである。

やめてくれ、重い話しするの…

フラれちまえ!消えろ!

部屋に入ると異国の匂いがした。

間違いなく、そこは日本では無かった。

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