話しが付いてる店で、自分が悪くも無いのに捕まりそうになった。
ましてや変造カードを押し付けられて、逃げろとまで言われているのである。
感謝など有り得なかった。
僕なら、話しが違うと怒る…
気持ち悪いぐらいの感謝にたじろいだ。
僕の無事まで喜んでいる。
コイツ…
ホモか?
不安がよぎる…
この時の意味不明の感謝も、後にチャンスを広げる事になった。
歯抜けとツルッパは別の席に座らせて、他の打ち子達に捕まった経緯を話した。
当然のように、歯抜けを悪者にした。
細かい話しをしても仕方がないので、話しを少し変えて言った。
「あの歯の抜けたポンコツ◯クザが、ドジッて、コイツにだけは見つかっちゃ行けないって店員に見つかったんだ…」
「それでカメラで全員捜されて捕まった。話しも上手く付いてなかった。すまん…」
みんな内心は知らないが怒ってはいなかった。
自分達が、打ち子が出来なくなる事を残念がっている。
確かに、この店がもう一度出来るとしても、彼らは無理であろう。
悪いねと謝るしか出来なかった。
みんなが歯抜けの方を見る。
苺ショートケーキを頬張る歯抜け…
歯が無いから硬い物がダメなんだね?
ポンコツ野郎!
「それで… 今日の日当だけど… 1人、十万払うから…」
涙をこらえて言った。
僕はまだまだ甘ちゃんだった…
更には、細かい計算がダルかった。
「そんなに良いよ」
皆、口々に言う。
「え?良いの?じゃあ1万で…」
そう言ったら結局十万円づつ取られた…
人間なんて、こんなもんだ…
カッコつけると貧乏になる事を学んだ。
レベルアップである。
しかしその、いやしい奴らの中に、お金いらない!と言う、光りを放つ天使のような男がいた!
良夫ちゃん…
な訳ない!
しっかり取られた十万円…
そう!
〇国人の、リュウであった!
お前、完全に頭虫わいてる…
「良いから取っとけよ…」
そう、いくら言っても受け取らない。
つい…
お前の国貧しいんだろ?と言いそうになった…
ダメだろ…
余りにもかたくなに拒むから、お金を受け取った周りの奴らは、恥ずかしくなり始めた。
みんなが必死に言い出した。
「受け取れ、受け取れ!」と…
いや…
返せよお前ら…
仕方なさそうにリュウはお金を受け取った。
僕の期待は、もろくも崩れ去った。
更にリュウは、僕にとってショックな事を口走った。
「だったらせめて食事をご馳走したいアルヨ。今度僕の家に食べに来たら良いヨ」
やだよ、気持ち悪い…
そして言ったのである。
「雪に作らせるから。雪は、料理、上手アルヨ」
「ん?え?雪?は?」
「一緒に暮らしてるんだ」
トドメを刺された。
金も取られてプチ失恋もした。
そんな一日であった…
いや! まだだ!
この悔しさを社長にぶつけようと決めた僕だった。
ツルッパには陰で五万円渡した。
歯抜けに今日も安く使われる話しになっていたから充分である。
節約しないと…
「歯抜けに言うなよ、取られるぞ」
かわいそうになるぐらいツルッパは喜んでいた。
同じゴト師で、この稼ぎの違いが憐れになる。
歯抜けには…
ファミレスの伝票をソッと手渡した。
また連絡するよと言って、みんなと別れ、歯抜けと二人になった。
社長との待ち合わせの時間である。
待ち合わせ場所に着く間に、今日のホールをどうする積もりか聞いた。
「絶対もう一回話し付けるぞ!」
何が絶対だよ…
ポンコツのくせにと思ったが、一応僕の希望を言った。
「どうせ今日、ほとんどの店員にバレたんだから、店員も巻き込んだ話しにしてくださいよ」
「そうだな… そうじゃなきゃ危なくて打ってられねえな。あいつら今日も朝から見回り方がキツかったからなー」
そう歯抜けは言った。
は?
楽だったけど?
何言ってんだと思った。
しかしそれで全てが納得出来た。
歯抜けは、怖くなって、店員に自分から挨拶したのである。
◯クザと分からせれば、捕まらないと思ったのであろう。
ゴトの世界は、◯クザとかだけじゃ通じないよと思った。
言う訳にも行かないので、上手く話し付けて下さいとだけ言った。
まあポンコツには無理だろうから、途中で僕がでしゃばろうと思っていた。
そんな事とは気づかずに、歯抜けは気合い充分な感じで吠えた。
「まかっちょけ!!」
空気抜けとる!
ホントかね?
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