婆さんを追い掛ける店員はいない。
仲間の七人を取り囲んでいる店員五人は、全て僕をニラんでいる。
「あいつもやってましたよ!」
そう言っているのが聞こえる。
その店員を軽くニラみながら自分のパチンコ台に座った。
店員達は僕を捕まえて良いのか戸惑っている。
しかしそんな事はどうでも良かった。
これで、この話しは無しになるな…
面接組の人になんて言うかなと思っていた。
あっ!そうだ出玉!
気づいた…
どうせもう来れないんなら換金せにゃ損だと思った。
僕の横に突っ立っている店員に、強気に言ってみた。
「おい!主任どいつだ…呼んで来い!」
横に突っ立ってプレッシャーを掛けて来る店員達に腹が立っていた。
その時、事務所から出て来た店員が、仲間達に景品カウンターの裏にある事務所へ入れと指示をし始めた。
仲間が全員事務所に入った最後に僕も事務所に入ろうとした。
「あなた何ですか!」
そう言って僕を押さえる店員に言った。
「うるせえ!主任どいつだ!」
立ち塞がる店員を押し退けて、強引に事務所へ入った。
中に入ると主任とおぼしき店員が、電話の受話器を持ってこちらを見た。
「あんた、主任さん?」
「そうです…」
「その電話、社長?」
「そうです…」
「出玉換金して帰るけど良いかって聞いてくれ」
主任は電話でのやり取りの後で言った。
「後で全部換金して渡すそうです。レシート置いて、みなさん帰って下さい。裏口からお願いします」
仲間はレシートを出して裏口に向かった。
ふざけんな!
何が裏口だ!
僕はそう思った。
僕はホールへ向かった。
事務所の入口で、ホールに向かうのを邪魔していた店員を、突き飛ばしながら言った。
「どけ!こら!」
店員は派手に転んだ。
なぜか怒りが止まらなかった。
そのままホールの玄関口から外に出た。
裏口から出て来た仲間達が居た。
「ファミレス行こ…」
それだけ言って歩き出す。
ひどく疲れていた。
この珍事が、僕をゴト師として、更にはゴト師の上への階段を、駆け上がらせる結果になった。
しかし、この時は何も気づかず、ただコーヒーが飲みたかった。
ファミレスへ向かう道で歯抜けと話しをした。
「とりあえず朝渡したお金返して。あいつらに払ってやんなきゃならないから」
「なんで?」
トボケる歯抜け…
先程からの怒りがおさまりきれていない。
テメーのせいなんだぞ!
抜け作やろー!
そう言いたかった。
しかし腐っても◯クザである。
それを言えば喧嘩になる。
精神的にやっつける事にした。
「歯抜けさん、なんでさっき立たされ坊主みたいに立たされてたの?うなだれて」
「…… 」
「それも先頭にいたよね。一番最初に捕まってるでしょ?」
「…… 」
「あれ言っちゃいけなかったんだよ。だからカメラで捜されてみんな捕まったんだよ。うつむいてないで社長にすぐ電話すりゃ良かったじゃない」
言い過ぎたかなと思ったが歯抜けは違う反応をした。
歯抜けが吠える。
「社長の野郎が悪いんだ!あの野郎~ ケツ取ってやる!!」
黙れ負け犬…
キャンキャン吠えんな…
「それは歯抜けさんが好きにしたら良いよ。とりあえず金返して」
あくまでも、お金な僕…
意外と大人しく歯抜けはお金を返した。
コイツそんなに悪い奴じゃないんだなと思った。
ただの抜け作だ…
気になる事を僕は聞いた。
「もう、この店終わりでしょ?」
「大丈夫だ!今晩話す!お前も来れるか?」
無理だろ~と思ったが、もしかしてもあるので、行けますけど~と、ダルそうに言った。
歯抜けはすぐに社長に電話して、怒鳴り散らしながら会う約束をした。
歯抜けの社長に対する態度を見て、まだイケるかも…と少し期待した。
ファミレスに着く前に銀行に寄りお金を下ろした。
打ち子に問題は無かった。
問題が無い以上、お金は渡さなければいけないと思った。
この時既に僕はお金持ちであった。
百や二百の金でオタオタしてられるか!と思った。
嘘である…
ホントは泣きたかった。
歯抜けからは取れないし…
泣く泣く諦めた。
ファミレスに着くとリュウが必死な顔で入口まで駆け寄って来た。
やべ…
文句言われる…
そう思ったが、抱きつく勢いで、感謝してると言うような事を言った。
興奮しているので言葉が全然分からない。
なぜ感謝?
馬鹿なの?
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