組織犯罪の始まり5

婆さんを追い掛ける店員はいない。

仲間の七人を取り囲んでいる店員五人は、全て僕をニラんでいる。

「あいつもやってましたよ!」

そう言っているのが聞こえる。

その店員を軽くニラみながら自分のパチンコ台に座った。

店員達は僕を捕まえて良いのか戸惑っている。

しかしそんな事はどうでも良かった。

これで、この話しは無しになるな…

面接組の人になんて言うかなと思っていた。

あっ!そうだ出玉!

気づいた…

どうせもう来れないんなら換金せにゃ損だと思った。

僕の横に突っ立っている店員に、強気に言ってみた。

「おい!主任どいつだ…呼んで来い!」

横に突っ立ってプレッシャーを掛けて来る店員達に腹が立っていた。

その時、事務所から出て来た店員が、仲間達に景品カウンターの裏にある事務所へ入れと指示をし始めた。

仲間が全員事務所に入った最後に僕も事務所に入ろうとした。

「あなた何ですか!」

そう言って僕を押さえる店員に言った。

「うるせえ!主任どいつだ!」

立ち塞がる店員を押し退けて、強引に事務所へ入った。

中に入ると主任とおぼしき店員が、電話の受話器を持ってこちらを見た。

「あんた、主任さん?」

「そうです…」

「その電話、社長?」

「そうです…」

「出玉換金して帰るけど良いかって聞いてくれ」

主任は電話でのやり取りの後で言った。

「後で全部換金して渡すそうです。レシート置いて、みなさん帰って下さい。裏口からお願いします」

仲間はレシートを出して裏口に向かった。

ふざけんな!

何が裏口だ!

僕はそう思った。

僕はホールへ向かった。

事務所の入口で、ホールに向かうのを邪魔していた店員を、突き飛ばしながら言った。

「どけ!こら!」

店員は派手に転んだ。

なぜか怒りが止まらなかった。

そのままホールの玄関口から外に出た。

裏口から出て来た仲間達が居た。

「ファミレス行こ…」

それだけ言って歩き出す。

ひどく疲れていた。

この珍事が、僕をゴト師として、更にはゴト師の上への階段を、駆け上がらせる結果になった。

しかし、この時は何も気づかず、ただコーヒーが飲みたかった。


スポンサーリンク

ファミレスへ向かう道で歯抜けと話しをした。

「とりあえず朝渡したお金返して。あいつらに払ってやんなきゃならないから」

「なんで?」

トボケる歯抜け…

先程からの怒りがおさまりきれていない。

テメーのせいなんだぞ!

抜け作やろー!

そう言いたかった。

しかし腐っても◯クザである。

それを言えば喧嘩になる。

精神的にやっつける事にした。

「歯抜けさん、なんでさっき立たされ坊主みたいに立たされてたの?うなだれて」

「…… 」

「それも先頭にいたよね。一番最初に捕まってるでしょ?」

「…… 」

「あれ言っちゃいけなかったんだよ。だからカメラで捜されてみんな捕まったんだよ。うつむいてないで社長にすぐ電話すりゃ良かったじゃない」

言い過ぎたかなと思ったが歯抜けは違う反応をした。

歯抜けが吠える。

「社長の野郎が悪いんだ!あの野郎~ ケツ取ってやる!!」

黙れ負け犬…

キャンキャン吠えんな…

「それは歯抜けさんが好きにしたら良いよ。とりあえず金返して」

あくまでも、お金な僕…

意外と大人しく歯抜けはお金を返した。

コイツそんなに悪い奴じゃないんだなと思った。

ただの抜け作だ…

気になる事を僕は聞いた。

「もう、この店終わりでしょ?」

「大丈夫だ!今晩話す!お前も来れるか?」

無理だろ~と思ったが、もしかしてもあるので、行けますけど~と、ダルそうに言った。

歯抜けはすぐに社長に電話して、怒鳴り散らしながら会う約束をした。

歯抜けの社長に対する態度を見て、まだイケるかも…と少し期待した。

ファミレスに着く前に銀行に寄りお金を下ろした。

打ち子に問題は無かった。

問題が無い以上、お金は渡さなければいけないと思った。

この時既に僕はお金持ちであった。

百や二百の金でオタオタしてられるか!と思った。

嘘である… 

ホントは泣きたかった。

歯抜けからは取れないし…

泣く泣く諦めた。

ファミレスに着くとリュウが必死な顔で入口まで駆け寄って来た。

やべ…

文句言われる…

そう思ったが、抱きつく勢いで、感謝してると言うような事を言った。

興奮しているので言葉が全然分からない。

なぜ感謝?

馬鹿なの?

コメント