どう見ても下っぱの店員に向かい歯抜けが言った。
「今日から変造カードでお世話になる者達のまとめ役のモンだけど、大人しく打たせるから気にしないで仕事してな~悪いな~」と…
目が点になる僕。
店員を見るとポカンとしてた。
コイツ今、何言った?
疑問しか浮かんで来なかった。
二時間打ってみて、下っぱの店員が僕達が入り込んでいる事を知らないのは明らかだった。
ましてや歯抜け自身が、店員にもバレないように打ってくれと言っていた。
歯抜けにそう聞かされた店員は、クビをフリフリ歯抜けから離れて行く。
すぐに僕は歯抜けに聞いた。
「なに言ったの?駄目じゃないの?」
得意そうに歯抜けが言う。
「挨拶だけだから大丈夫だよ!」
なぜか自信たっぷりに…
納得出来ない僕。
どんな話しの付け方になっているのか、もう一度確認しようと思い言った。
「ちょっと外出て」
「大丈夫だって!きちんと話し付いてるから。心配するなよ~」
歯抜けは余裕でそう言いパチンコ台に戻って行った。
店の中でガタガタ言い合う訳にも行かない。
後で確認する事にした。
何が有っても警察を呼ばれる事は無いだろうと思った。
それから二時間ぐらい打っただろうか…
先程歯抜けが話し掛けた店員は、一度もホールを巡回しない。
その時…
後ろを通った店員の動きがおかしい…
あれ?と思った。
捕まえるソブリじゃないか?
さっきの事もある。
ヤバイ!と感じ僕は席を立った
たまたま近くの台で打っていたリュウにも打つのをやめさせた。
「カード抜いて外出ろ」
小さく言った。
僕の雰囲気に異常を感じたリュウは慌ててカードを抜いた。
走り出しそうな雰囲気だったので笑いながら言い直した。
「歩いて外に出な。走ったら捕まる。大丈夫だから」
リュウと二人で店を出て、持っていた変造カードをリュウに押し付けた。
「これ持って駅前のファミレスに居な」
それだけ言って僕はホールに戻った。
店を出た、1、2分の間に状況は激変していた。
僕の目の前で片っ端から仲間が捕まって行く。
呆然とした。
一人の仲間に、二人の店員掛かりである。
話しが付いていると思っているので、戸惑ってはいるが仲間は誰一人抵抗していない。
たまたまトイレに行っていた婆さんを除き、5分ほどで全員捕まった…
ただ見ているだけしか出来なかった。
他に何が出来ただろう?
ホールにいたお客さんの数は少なかったが、店中が騒然としている。
仲間が一切の抵抗をしないので、店員は強気な態度に出ている。
僕の仲間を店の事務所には連れて行かず、捕まえた順番にカウンターの前に並ばせていた。
前から二番目にツルッパがデカイずうたいをして泣きそうに為りながら立たされている。
その隣りの先頭にはうつむいた歯抜けがいた。
その二人を見た瞬間…
吹き出した。
笑いが止まらなくなった。
こいつら何してんだ?
バカじゃねえの?と思うと腹を抱えて笑いたくなった。
良夫ちゃんも、なんで助けないの?みたいな顔で僕を見ている。
いたずらゴコロが騒ぎ出す…
パッキーカードを仲間に見られない券売機で一枚買った。
僕は歯抜けから一番近いパチンコ台に座り、タバコをくわえて本物のカードをサンドに入れた。
仲間が全員ギョッとした顔で僕を見る。
お前何してんだよ、捕まるぞ、みたいな顔が面白くて仕方なかった。
さて、そろそろ助けるかと思い席を立って歯抜けの近くに行った。
すかさず店員が僕のサンドのカードを抜いて、変造カードかの確認をしている。
あ~やっぱり僕もバレていたんだなと頭の中で思った。
その店員には構わず歯抜けに言った。
「オーナーの電話番号、何番?」
慌てて歯抜けが携帯を差し出した。
出なかったら面倒くさいなと思ったが、すぐにオーナーは電話に出た。
「歯抜けのトコの者ですけど分かります?」
「分かるよ、今主任に聞いた…」
ダラダラ話しても無駄なので、僕はいきなり言った。
「とりあえず警察は呼ばせないで下さいよ」
オーナーは慌てて言う。
「分かってる、すぐに帰らせるから!」
なら良いやと思ったが最後に、一言だけ言った。
「全部で七人です。ちなみに歯抜けも捕まってますから」
ビックリしたように「えっ!」と言ったきり携帯は沈黙した。
携帯を歯抜けに返して仲間に聞こえるように言った。
「すぐに帰すって」
婆さんがトイレの前で不安そうにこちらを見ている。
二人の店員が僕に付いて来たが、無視して婆さんに小声で店員に聞こえないように言った。
「駅前のファミレスにいて、みんなすぐ帰れるから」
「分かりました」
婆さんは笑顔で店を出て行った。
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