初日だしサービスする事にして、出した分を全て持って帰っても良い事にしようと歯抜けに言った。
しかし、歯抜けは嫌がった。
仕方なくカード代として1人一万円だけ出させて歯抜けに渡した。
それでも歯抜けは不満げである。
中々しっかり者のヤクザではある。
そのセコさに神様がもうじき罰を与えるとは、この時まったく気づかなかった。
そしていよいよゴトの当日を迎えた。
ホールは東京都に隣接する神○川県にあった。
僕の家から車で一時間ぐらいで電車ならもう少し早い。
良夫ちゃんの車でホールに向かう途中に〇国人のリュウだけを拾って行く。
その他6人は現地集合である。
なぜリュウだけを拾って行くかと言うと、雪ちゃんの彼氏だとは知らなかったからである。
「リュウをお願い」
可愛く頼まれた…
彼氏だと知っていれば電車で行かせたのに…
軽く失恋である。
車の中でリュウとたどたどしいながらも話しをした。
リュウは日本に飛行機で留学生として来ていた。
この時、既にビザが切れて不法滞在である。
「オンボロ船じゃないの?」
「あれは貧しい県の人だよ」
そう言いながらリュウは笑った。
一つの国の中に、貧しくて、教育さえ受けられない地方と、先進的な地方がある事を、この時知った。
リュウは〇国の都会モンであった。
確かに少しオシャレさんである。
日本に来ていて、乱暴な事をしたり、危ない事をする人は、教育を受けていない地方の人達だと彼は言った。
俺達は頭を使うとも言った。
言葉の端々に、少し地方人をバカにする響きがあった。
上手くやってくれれば、どっちでも良いよと僕は思った。
少し緊張しているリュウに言った。
「客にバレて店員が仕方なくリュウを捕まえても、警察呼ばれたりしないで、すぐ帰れるから安心しな。それとリュウは、ホールで人と喋っちゃ駄目だよ。目立つから」
「ありがとう。分かった。クビになりたく無いから上手くやるヨ」
そう言ってリュウは笑った。
現地の近くのファミレスに全員集合した。
ツルッパの頭が一際光って見える。
今回の仕事は、歯抜けの仕事では無く、僕の仕事だとツルッパには言ってある。
「大人しく打てよ。いつもみたいにまわりをニラむなよ」
「大丈夫なの?」
笑ってしまう程、ツルッパはビクビクしている。
地元の店以外で、初めて変造カードゴトをやるのであった。
僕は意識して笑いながらツルッパに言った。
「平気だよ。ビクつくな」
カードを全員に配り、いよいよスタートである。
この時、一番ビビっていたのは、ツルッパ以上に僕だったかもしれない。
午前10時30分…
全員バラバラに入店し、思い思いの台に座り打ち始めた。
結構な大型店である。
客付きが良くないので、オーナーは変造カード使用に踏み切った。
店側の儲けは一日二十万円程だろうか。
月で六百万円。
僕の手にする金額と比較すると、たいしたことはない。
カード会社の様子を見て打ち込む金額を増やすと言っているそうである。
この日の夜、歯抜けと共にオーナーと会う事になっている。
なんとしてもこの日は無事に終わらせたかった。
しかし信じられないような珍事が起こる。
歯抜け…
抜けているのは歯だけでは無かった。
二時間程はみんな順調に打っていた。
リュウを含む面接組の人達も問題は全く無い。
ツルッパもデカイ体を縮めるように大人しく打っている。
婆さんと良夫ちゃんに至っては、弁当のお握りなんぞを広げて食べながら、ペチャクチャ話して楽しそうに打っている…
お前ら~!
いい加減にしろよ!
とりあえずは、順調である…
歯抜けはどこだと捜していると、ジュースの自販機の前に立っていた。
なんだ?
ビビって打てないのか?
そう思い、僕は歯抜けに近づいて行った。
歯抜けは集金はしていたが、変造カードをほとんど打った事が無い。
捕まらないと分かっているので、今日は自分から打ちたいと言い出していた。
その時、歯抜けの前を一人の店員が通った。
それを呼び止める歯抜け…
なんだ?
ヤ◯ザ得意の世間話でもすんのか?
二人の会話が聞こえる自販機で、僕はジュースを買った。
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