知らぬ間にゴト師17

だからと言って全てがマヌケな店員やホールばかりでは無い。

ゴト師慣れしたホールはこの時期、すでに結構あった。

変造カードが流行り出して僕達のような、にわかゴト師が大量に出現し始めていた事もあり、ゴト師を見つけても恐怖や驚きや興味を抱かないホールが増えていた。

何度か変造カードゴトを自分達のホールでやられ、ゴト師を捕まえたり逃げられたりしているのだろう。

僕達は逃げる方で経験を積んだが、彼らは捕まえる方で経験を積んでいる。

ゴトの世界は何のゴトをするのかをホール側に知られていると、圧倒的にホール側が強い。

ホール側には防犯カメラが有り、沢山の店員が居る。

更には正義もホール側の物である。

この正義と言う奴が一番厄介であった。

パチンコ店の経営者側は、変造カードを見逃しても構わないと思っていたとしても、店員に「見逃せ」とは言えない。

経営者側は、店員側に、犯罪の片棒を担いでいると思われたくないのである。

例えば、一つの店で何ヶ月か僕達が変造カードを使う。

当然のように他店からの持ち込みカードのデーターに、大量の不自然な差額が出る。

これは後に知った事だが普段他店からの持ち込みカードは、ホールの大きさにもよるが一日、十万円を越える事はほとんど無かったと言う。

そんなホールに僕達が毎日、二、三十万円分の変造カードを打ち込む。

経営者側が、その日変造カードを使用された事に気付かない事が有り得るだろうか？

一日で気づかないとしても月単位になったとしたら気づかないだろうか？

どんな馬鹿でも間違いなく気づく。

それでもそのホールに僕達は何ヶ月も変造カードを打ち込む。

間違い無く経営者側に正義は無い。

しかし正義は存在する。

安い給料で重たいドル箱を一生懸命に運び、疲れているのにいつも笑顔で働く店員の中に…

経験を積み正義を振りかざす店員には負ける。

なんとか出くわさないように願うだけだった。

お前ら…

鼻の穴膨らませて来るから怖いんだよ！！

すぐにバレたの気づくわ！

イレ込むなっつうの。

馬かよ？　

経営者側の思惑に気づかない店員は、正義感から体を張る。

何ヶ月も同じホールで打ち続けていると、僕達のドジを見つけた店員が、得意な顔で突然牙をむく。

体を張ると言うのは決して大袈裟では無い。

この当時、ゴト師に殴られたり、刺されたり、撃たれた店員は沢山いた。

これは現代のゴト師対応にも言える事だが、経営者の利益を守る為に、そこまで無理をするなと言いたい。

うまく捕まえたとしても、ほめられるだけなのである。

僕の仲間には、いくら言ってもナイフを手放さない男がいた。

この男は小心者のヤクザだった。

普段からヤクザとは思えないぐらいの怖がりである。

追い込まれれば、この男はナイフを振るうと、僕はいつも心配であった。

小心だからナイフを持つ。

小心者が武器を持った時ほど怖い物は無い。

追い込まれれば必ず振るう。

そこに正義感に駆られた、力の無い店員が向かう。

正義を振りかざせば悪がひれ伏すと勘違いして。

結果は誰にも分からない。

お気をつけて…

三人の珍道中は少しシリアスになり始めた。

スネ夫の店は二ヶ月経っても順調だった。

他の店で三人で打っていた時、背中を良夫ちゃんが叩いて来た。

基本的に僕はプッツン二人組とは、はなれて打つ。

店員よりもコイツらの方が危ない…

三人で同じ店で打っているが、一人一人好みの店は違う。

その店に対しての感じかたが微妙に違うからである。

僕が、この店楽だ、と言っても、二人のうちのどちらかが嫌がる事がある。

逆に僕が嫌がる事もある。

嫌がる以上、何か僕が感じない部分を感じるんだろうと思い、適当にあしらったりはしなかった。

この時のホールは、まだ何回も来ていた訳では無い。

まだ数回だが僕はやりやすい店だと思っていた。

「あそこ行こ」と言うと婆さんもやりやすいと言っていたので「はい」と言う。

良夫ちゃんもやりやすいと言っていたのに、何故かモジモジする。

「ん？　なんかあった？」と聞くと「なんにもない」と答える。

「平気なの？」と聞くと「平気です」と答える。

何かあるなとは思いながらも、平気ですと言う以上たいした事では無いと判断した。

危険があるのに、平気ですとは、まさか言わない。

それが普通の人ならば…

コイツ普通か？

ちがいまーーーす！

そしてホールで二時間ほど打っている時に背中を叩かれた。

しまった！と思った。