更に儲けてやる…
どっちか捕まんないかなと思ったのは愛嬌である。
スネ夫の店で安全に稼げる七万円を確保しても、僕達は危険を顧みず他の店でもゴトを続けた。
スネ夫の店が夕方終わると他の店を廻った。
休みなども取らない随分マジメなゴト師である。
金の亡者だったのだろう。
スネ夫の店に慣れて来て、朝10時から打つようになり、2時か3時には七万円を確保する。
更に他の店で危険な平均五万円を稼ぎ出し、一日の稼ぎが三人とも十万円を楽に越えるようになった。
その他に、僕には変造カードの売り上げもあった。
スネ夫の店が有る事で、婆さん達が使うカードの枚数も増えている。
僕の稼ぎは一日二十万円に近づいていた。
飲まない、打たない、買わない、三拍子揃った僕は、貯金箱替わりにしている清掃車が回収するような、業務用の青い大きな丸いゴミ箱の中に、使われないお金を投げ込んで行った。
なぜだか、ひどく虚しかった。
この時期、どこの店でも変造カードの情報を正確につかみ始めていた。
元々パチンコホールの経営者側の人間は、カード会社からの通達で変造カードの情報を正確につかんでいたが、自分の店が金銭的には得をする事なので余り強行な対策を取らなかった。
経営者的には、スネ夫の店ほどでは無いが、見逃しても良いや程度の店が半分ぐらいだったと思う。
ホールのカードデーターに、明らかにその店で購入したのでは無いカードの、使用金額の差額が出る以上、間違い無い事だと思う。
捕まえる気があるのなら、カードデーターに差額が出た時、店員に変造カード使用者を探させれば、ゴト師のテクニックによるが必ず見つけられる。
簡単なのはホールでカードを買わないでプレイしている人間を捜す事である。
見つけたらカメラなり張り込みでマークする。
その後店員で取り押さえるか、警察に届けるかで済む。
厳しい店は、その通りに行動していた。
*
この時期は、カード会社の通達や、パチンコホール側の思惑など、僕達は深く考えなかった。
目の前で実際に起こる出来事への対処で一杯だった。
ホールに入り、やりやすいか、やりにくいかを少し打って見て、肌で感じるしか出来なかった。
疑われた事を瞬間で気付いて店を出なければ捕まる可能性が高い。
気付く為にキョロキョロすれば、それが店員の疑いを招く。
店員だけでは無く、お客さんも変造カードをテレビで見て知っている。
周りは全て敵に変わっていた。
それでも変造カードをやっていられたのは、欲望と経験のお陰であった。
虚しさの中にも消えない欲望が強くあった。
経験も味方した。
一年に満たない経験だったが、助かる事は多くなっていた。
何が一番助かったかと言うと、普通の人達が犯罪者を見つけた時の挙動が分かるようになった事である。
ほぼ全員に共通するのが、ビックリして一瞬僕達を見つめながら動きが止まる事だろう。
少しすると怖がるタイプと興味を持つタイプに分かれる。
咄嗟に捕まえようとする人間は誰一人居なかった。
ゼロである。
何度も言うが、悲しいかな全くのゼロである。
僕達は最初のビックリに気付いて、さりげなく席を立てば良いのである。
気づけなければ捕まる可能性が多少高くなる。
しかし気づけ無くて店員が捕まえる準備をし始めた時は簡単に分かる。
捕まえる準備に入った店員は、恐怖よりも興味が強い。
それが必ずと言って良い程行動に出た。
考えの足りない店員は、頭隠して尻隠さずの逆をする。
顔だけで僕達を覗くと言う不自然な暴挙に出るのである。
誰でも気づく…
店員が覗いている近くのお客さん達の動きもおかしくなるのですぐに分かる。
これが一番多かった。
少し物事を考えられる店員でもたいした変わりは無い。
犯罪者を見物したいのか、犯行の確実な確認をしたいのかは知らないが、それまでと違う行動を必ずする。
分かりやすいのが、歩くスピードが変わる。
僕の列に来る、タイミングが変わり、回数が増える。
今まで列に来ていた店員と人が変わる事が多い。
後ろを通る時などに不自然にこちらを見ないようになる。
細かく言えばまだまだあるし、決定的な物もあるが、このぐらいでやめておく。
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