常識で考えると、警察だって馬鹿じゃ無いから捕まるだろと思うだろうが一度も捕まっていない。「なんでそんな事するの?」
僕は良夫ちゃんに、そう聞いた。
「張り込む警官はいつも違うから」
そうトンチンカンな答えが返る。
そして標識を20個積んだ車を同じ所に停める…
頭狂ってるのか?
人とは常識の違う人間はいる。
確実に存在する。
悲しいかな目の前に…
婆さんと良夫ちゃんの二人は、変造カードをパチンコ台の、下の玉の受け皿に、堂々と置いていた。
一万円カードなら10枚。
五千円カードなら20枚。
確かに、パンチ穴のあく所を良く見なければ、簡単には本物と見分けは付かない。
まさかを突いた手口のつもりだったのかもしれない。
しかし変造カードをそのまま置き忘れてトイレに行く事もあった…
「それだけはやめてくれ~」
そう何度も頼み、いっ時はやめてくれるのだが、気付くと出していた。
馬鹿な子が、半ズボンのスソから横チンを出しているのとは意味が違う。
こっちは捕まるのである。
テレビで騒がれるようになってからは、隣のお客さんですらジロジロと、大量のカードを見るようになっていた。
今回捕まったのも店員の言った言葉を聞くと、多分それが原因だと思った。
多分ではない…
絶対だ!
アホー!!
「なおさないなら、もう一緒にやれないよ」
そう僕は二人に言った。
テレビで騒いでいる事も分かりやすく教えた。
なぜか二人は、渋々頷いた。
何故、渋々なんだ?
なおすなら、まあ良いかと、その場は納得した。
しかしまたやらかすのであった…
それから暫くして婆さんが言い出した。
「あなたが、良夫ちゃんを助けたのを話したら、一緒にやりたいって人が4人いるの」
助けたとか言って連れて来たんじゃ、なんか有った時また助けるのか?と思った。
僕、そのうち捕まるよね?
間違いなく…
「助けたり出来ないから断って」
そう僕は言った。
「いいのいいの助けないで。今の所のカードは高いらしいから移りたいそうなの」
そう婆さんは言う。
言い忘れたが、この親子は随分と品が良い。
婆さんなどは確実に若い頃美人だったと連想させる。
良夫ちゃんなどと50過ぎの息子を呼ぶ所なども高貴な感じが無きにしもあらずであった。
婆さんやおばあちゃんと呼ばれる事もひどく嫌う。
二人には浮世ばなれした感じがあった。
昔は良い所の出か…?
無いな…
ただのボケた老人だ。
婆さんに変造カードをやりたい奴が4人いると言われて思い出した。
確かこの二人にカードを売っていた所はめちゃくちゃ高かった…
鴨や!
「だったらカードだけ売るよ。一万円のカード二千円ね…」
確かコイツら四千円だった。
顔がニヤけてしまう。
ジトっとした目で婆さんが僕を見ている。
ん!?
目を反らす僕…
負ける訳には行かない。
チラッと見たら、まだ見てた…
楽させてくれよ~
おかしいの二人面倒見てんだからさ~
そう思った。
なんとか頑張った結果1500円で、一日40枚売る事に決定した。
一枚あたり千円儲け。
何もしないで、一日四万円入って来る。
現場に出るの、やめようかなと少し思った。
しかしハングリー精神はまだまだ消えていなかった。
八億円にも全然届かん…
テレビが変造、偽造カードについて、大々的に報道するようになって、パチンコホールでは、僕たちにとって、幾つかの重大な変化があった。
カード会社からの通達で、間違い無く、変造カードを使わせないように、強制力は無いが、パチンコ店側へ申し入れがあった筈である。
なのに明らかに僕たちを見逃す店が増えた。
少し前まではパチンコを打たない玉抜きを大量にすると、幹部とおぼしき店員がホールに出て来て、慌てた顔で店中を廻り僕らを捜していた。
それがなくなった。
なくなっただけではない。
止めても止めても玉抜きをするプッツン二人がある時気づいた。
「この店見逃してますよ」
そう良夫ちゃんが言った。
「なんで分かる?」
聞くと、婆さんが白服の幹部らしき人間に目をつけられたと言う。
ジロジロ見るから嫌だなと思い、席を何度か立って、疑われているかの確認をしたと言う。
カモフラージュのつもりで、婆さんが、ジュースを買っていると、白服が近づいて来て、暑いですね~などと愛想を振って来る。
婆さんは疑われたのは間違いないと思い、気味が悪くなり白服から離れようとした。
すると白服は離れ際に、毎日来て下さいねとハッキリ言ったと言うのである。
聞いた時、ホンとかよ?ボケてんじゃねえの?と僕は思った。
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