変造、偽造カードの責任は、パチンコホールにあるのでは無く、カード会社の責任である。
使用された変造カードの損害の全てをカード会社が被る。
僕が一万円の変造カードを使用すると、カード会社が一万円の損をする。
パチンコホールにして見れば、いくらやられても自分の腹は痛まない。
逆に玉抜き等、パチンコを打たないで短時間に変造カードを使ってくれると店側の利益は大きくなる。
お客さんの居ない店などは特にそうである。
そこで変造カードを見逃す店と、従来通り取り締まる店に別れ始めた。
僕は後に、ゴトの仕事とは別に、沢山のパチンコ屋のオーナーと知り会った。
どいつも、こいつも、糞のような奴ばかりにみえた。
お客を鴨と呼び、ゴミと言う。
僕よりも、よっぽど泥棒である…
違うか……?
僕が付き合ったのは、たった30人ぐらいの人達だったから、その他は良い人ばかりかもしれない。
でも悪いオーナーさん達は確実に居る。
そう言うお店はカード会社の損害など当然考えない。
周りのお客さんにバレずに変造カードを使うなら見逃しもする。
実状を知らない店員が、正義感に駆られて変造カードゴト師を捕まえるだけである。
妄爺が面倒見れないかと聞いて来たのはそんな時期であった。
変造、偽造カードの末期には、パチンコホールの対策は劇的に変わる事になるのだが、まだまだやり方によっては楽に稼げた。
「とりあえずそいつらに会って見てくれよ」
そう妄爺は言った。
そいつら…?
複数かよ…
そう思いはしたが、妄爺が僕に振ってくる話しは基本的に僕の為を考えていた。
大概どこか抜けているか勘違いが多かったが、悪気はないのは分かる。
この時も妄爺は、一人でゴトを続ける僕が怖いだろうと考えた。
さらに、そいつらと呼ばれた人達は既に変造カードを経験していた。
カードの仕入れ先が僕とは違い、高い値段で取引していた。
「お前がそいつらにカードを少し安く卸しても儲けが出るぞ。なんかあった時人数居れば安全だろうしな」
そう言って妄爺は笑った。
怖くない…
いつ僕が怖がった…
楽して問屋みたいな事したいって言った事はない…
人数いる方が危ない…
一人が怖いなんて言ってる奴が捕まるんだ…
そう思ったが無下にも出来ない。
「だったらそいつらから抜いた分は妄爺が取りなよ。夏、芋売らないで済むよ。夏に芋って…」
そう言って僕は笑った。
「いらない。芋は売れる」
アホ丸出し…
このころには、妄爺の頑固さはよく知っていた。
まるで結婚までは貞操を守ると決めた乙女のようである。
「売れる訳ないだろ。見た事あるか? 夏に芋売ってる奴? 頭おかしいと思われるよ」
「固定客が沢山付いた。夏も買うって言ってくれてる」
自慢げである。
あんたホントにホントにヤクザだったのかと呆れてしまう。
面倒臭いから放っておいた。
次の日さらに面倒臭い【そいつら】に会った。
そいつらの一人と電話で話し、駅で待ち合わせした。
二人であった。
彼女に借りた車で横になり、駅の出口で待っていると、後部座席を70才は軽く越えているであろう、おばあちゃんがノックした。
コンコン!
「は?」
誰?
何?
まさか… と思った。
そのお婆ちゃんの後ろに、旦那さんのような白髪の小太りな男も車を覗き込むように立っている。
見た瞬間に、ムリッ!と思った。
違う事を願い窓を開けて聞いた。
「なんですか…?」
こいつらだ!
間違いねー!
そう思いながら…
僕の勘はよく当たる。
車に乗せたら自己紹介された。
頭の中を、マジで!!マジで!!が駆け巡る。
何を聞かされたのかは覚えていない。
ただ後部座席に座り、品の良さそうにニコニコ笑う、おばあちゃんだけを記憶している。
この二人とは長い付き合いになった。
旦那だと思った男は息子で50才。
少しボケた感じの顔…
60才は越えているように見える。
良夫ちゃんと呼ばされた。
母親のおばあちゃんは年齢不詳…
わかるよ…
80近いよな…
最初の頃は婆さんと呼んでいたが、婆さんに怒られてお母さんと呼ばされた。
不自然だろ…
「やるの無理でしょ~」
そう、良夫ちゃんに言った。
ボンヤリした顔で良夫ちゃんが答える。
「平気です。慣れてます。行きましょう…」
ゲンナリしながら変造カードをやらせてみた。
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