このころ焼き芋を売り始めて三ヶ月経っていたのだが、ヨゴレの親玉に教わった芋の売り方をやめて、自分流に売っていた。
何が良かったのかバンバン売れた。
手取り二万円ぐらいになっていた。
それでも妄爺は全然売れない。
ヨゴレ3人組も変わらず売れていなかった。
僕、芋屋の才能あったのね…
嬉しくない。
ゴト師をやると決めた僕。
焼き芋屋を続けると決めた妄爺。
焼き芋屋を続けるなら妄爺を、一人で食えるようにしてやらねばならない。
僕から、一切、お金を受け取りたく無いと言っている。
ならば搾取しまくりのヨゴレの親玉からの自立と、寮からの脱出だけはさせたい。
もう一度、一から芋の売り方を教えた。
固定客も妄爺にゆずったら、どうにか一万円ぐらい売れるようになった。
ヨゴレの親玉のトコに居て、一万円稼げるならば、自立さえすれば手取りは二万円になる。
焼き芋で稼いだ貯金と、17万円分の変造カードで出したお金を合わせた。
妄爺は嫌がったが、そのお金で、芋用の車と釜を一台作り部屋を借りた。
その部屋に家なき子の妄爺を押し込み、僕は焼き芋のお客さんだった女の子の家に転がり込んだ。
男の二人暮しなどキモい。
冗談ではない…
女の子と仲良くなっていて助かった…
変造カードを、初めて使ったあの日から、二週間で脱出に成功出来た。
妄爺は脱出決行の日、寮に住むヨゴレ三人組に挨拶に行くと言い張った。
何するんだ…?
妄爺にして見れば怨み重なる三人衆である。
怨み晴らさでおくべきか~
そんな感じであろう。
なぜか菓子折りを持って行った…。
どうやって仕返しするのか、僕には分からなかった。
まさか挨拶だけ…?
三人組を目の前にして妄爺は言った。
「お世話になりました」
なんでやねん!
呆れるわっ!
二人のヨゴレは「じゃあね」と言った。
一人はシカトしている…
妄爺は、そのまま外に出た。
僕は少しイラッと来たから、座っているシカトヨゴレの脳天に、力いっぱいゲンコツを落とした。
ゴツン!!
冬空に突き抜けそうな良い音がした。
寮からの脱出の為に20枚の変造カードは使い切っていた。
この時の変造カードを使った感想を言うと、間違い無く月収100万円は軽く越えると思った。
変造カードを買い取る値段にもよるけれど…
この時カードの値段の相場が分からなかった。
一万円の変造カードを二千円ぐらいまでで買い取れるならイケるような気がした。
ただ、僕の仕入れ値段は、誰にも負けないぐらい安かった。
一万円の変造カードが500円であった。
その後、知り合って一緒に行動する仲間が沢山出来たのだが、いつも僕の仕入れ値段が一番安かった。
安いのには、当然理由がある。
普通変造カードを作っている工場(マンションの一室など)は、捕まるのを嫌い、カードを店で実際に使う人間の間に人を立てる。
ホールで捕まった人間に、工場の場所を喋られると、芋づる式にみんな捕まるからである。
間に立つ人間は、ヤクザだったり自分達が信用する人間である。
そのヤクザや、工場に信用された人間が捕まるのを嫌うと、更に間に人が立つ。
タダで捕まる危険があるのに間に立つ人間は居ないので、当然のように仕入れ値に100円程度上乗せする。
間の人間の数と、欲張りさんが混ざったカードは必然的に高くなる…
仲間になった人の中には、一万円の変造カードを、四千円で買っていた人もいる。
ゴト師が使う道具や情報は、売りに出されるとだいたいこんな感じである。
一枚4000円でも儲けは少ないが出る。
ただ、捕まる可能性があるのに少し寒い…
あ、思い付いた…ダシタ?
一万円の変造カードは700円から1500円の間で取引していた。
妄爺が、この変造カードを兄弟分から貰った時、シノギにしなと言われていた。
兄弟分が言うには、自分で打つのでは無く、安く卸すから人に売れと言う事であった。
しかし妄爺はカタギに成ろうとしていた。
いくつかのカタギの仕事はして見たが、我慢出来ない事が多く転々としたらしい。
僕は、それを聞いた時、イジメられたんだなと理解した。
そして焼き芋屋に落ちた(焼き芋屋さん、ごめんなさい。僕が働いたトコは、そんな感じだったので、許して下さい)
だからと言って妄爺はヘタレでは無い。
後に妄爺絡みで危険な場面をいくつか経験した。
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