何が情けないって…
どんなに頑張ったって芋売れない。
カッコも悪いし…
季節も悪かった。
夏が終わったばっかりで、周りはTシャツで歩いている奴がいっぱい居た。
お前が阿保だと思うでしょ?
面接の前に電話して、コジキの親玉に聞いてはいた。
「まだ暑いのに芋売れるんですか?」
親玉は、自信満々に言った。
「バンバン売れてるよ!」
コジキの親玉、すぐばれる嘘を平気で付く。
来てみりゃ売れてる奴なんかいやしない。
1番売ってる奴で8千円。
8千円と言っても、そこから借りてる車代とか、ガソリン代とか寮費とか、芋の代金とか引かれるから、手取りなんて3千円もあれば良いほうだった。
同期のオッサンと僕なんて、売り方も慣れていないから、取り分は500円前後だった。
小学生の小遣いか…
ご飯も三回なんて食べるお金無いから、売れ残りの、芋ばっかり食べていた。
だからオナラばっかりこいていた。
おならプゥってすると、オッサンと僕のおならは同じ匂いがしたんです。
芋食うと屁がでる。
本当の事です…
それでも10日も経つと僕は芋が売れ始めた。
手取りで五千円ぐらい。
かわいそうだったのが同期のオッサン。
オッサンじゃ分かりづらい…
いくら妄想とは言え、名前ぐらいは付けてやらねばなるまい…
でも面倒臭いから妄想の妄の字を取って【妄爺(モウジイ)】でお願いします。
爺って付けたけど年は僕の30才上で53、4だったと思う。
ジジイの歳に興味が無い。
この妄爺、どこが可哀相かって言うと、変に律儀で、一番後輩だからと言って皆の下手に出る。
だから利用される。
その上綺麗好き。
余り喋らないけど喋れば随分しっかりしていた。
みんなに妙に優しかった。
顔の作りだけ見れば、映画、仁義なき戦いの菅原文太に似ていた。
悲しいかな、野球帽取るとハゲだった。
寮に前から住んでいた20代、30代、50代のロクデナシ達は妄爺をいつもいびっていた。
六畳に、二段ベット二つだから一人寝床からあぶれる。
得意の、俺一番後輩だから、と言って妄爺は台所で寝ていた。
そんな事されたら僕の立場は?
「替わるよ」
そう言っても言う事を聞かない。
掃除とかも全部するし、買い出しなんかも進んでしていた。
それを見て、三人のコジキ達は、感謝するどころか馬鹿にしてイジメていた。
こんな底辺に落ちて来てまでも、人は自分よりも下の人間を作りたいんだなと思った。
面倒臭いから、放っておいた。
それでも少しは優しくしたりした…
妄爺に優しくするもんだから、コジキ三人組は僕の事もイジメて来た。
人の事なら100年でも我慢出来るが、自分の事なら一秒たりとも我慢は出来ぬ…
すぐキレた。
多勢に無勢で勝てなかったけど根性はしっかり見せた。
その日から、みんな僕を苦手になった…
何を勘違いしたのか、それ以来、妙に僕に懐く妄爺…
朝起きれないのを、いつも起こして貰っていたから無下にもしづらい。
仲良しになった…
ベットも横取りしてあげたし、芋の売り方も教えてあげた。
それでも妄爺は芋が売れない。
芋ばかりじゃ死ぬから、飯食わせるよと言っても頑なに拒む。
ハゲって頑固だからハゲたのかなと思っていた。
体の限界は近かったはずである。
そんな時、妄爺がポケットから変な物を出して来た。
「これ使えるのかな?」
見た時、使い終わったゴミだと思った。
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