流転 40

餌を目の前にぶら下げられた良夫ちゃんは無敵であった。

僕は離れた所から良夫ちゃんを見ていた。

良夫ちゃんは物凄い勢いでカードを受付機に通している。

先ほどまでの怯みが全く見えない。

周りなど見えていないのであろう。

しまいには受付機を蹴ったりしている。

やめろ!

アホか!!

10分掛からず残りの変造カードを受付機に無事に通した良夫ちゃんは走って店を出て行った。

その良夫ちゃんの後ろ姿を女性店員がクビを捻りながら見ていた。

少し薬がきき過ぎた事を知った。

車に戻ると鼻息を荒くした良夫ちゃんが言った。

「どうすればもっとお金になるんですか!?」

「後で教えるよ…」

待て!

そう言われ、お預けをくらった犬のような顔になった良夫ちゃんを見て、僕は一人笑っていた。

この後三人で使えるカードを交換して銘々のパチンコ屋へと向かった。

車は良夫ちゃんの一台で来ていたので良夫ちゃんが僕達をパチンコ屋へと降ろして廻る。

僕も源次も終わったら近くの喫茶店で良夫ちゃんが迎えに来るまで待機であった。

これからは自分も車を出そうと思った。

パチンコ屋へと入りカードをサンドに入れた時間は午後2時頃であった。

受付機に通し始めてから4時間ほどが過ぎていた。

使える金額は一人約三万円。

本当にだるいカードになってしまっていた。

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変造カードの使用自体は多少気疲れするが問題無く出来た。

少ないカードだったので自分なりに出そうな台を探してやった。

安全よりも大当たりを重視していた。

三万円など早ければ、2時間程で使い切ってしまう。

この日は一人二軒にカードが別れていたので、この店で使える金額は一万五千円ほどであった。

変造カードとは言え、お金を払って買っているので全てやられてしまえばマイナスになる。

何よりも朝からの苦労が全て無駄になる事がつらい。

長い目で見れば、七割のお金が返ってくると理解はしているのだが、そんな理屈は気休めでしかない。

なんとしても毎日結果が欲しいのである。

少ない金額を打ち込むのでは平均が出づらいのも事実であった。

こうなると安くはやっているが気分は一般のお客さんと変わらない。

この頃の僕は必死に出そうな台を探すようになっていた。

それが何故か裏目に回った。

やってもやっても負ける日が続いて行くのである。

完全に回収率七割を下回っていた。

回収率三割前後では無かったか。

僕は【引き弱】の称号を手下達に貰った。

パチンコやパチンコ屋が憎くて仕方ない。

今に見ていろ!!

そう思う事で精神の均衡を保とうとしていた。

しかし一人の男が僕の苛立ちに拍車をかける。

一軒目でアッサリやられて喫茶店で良夫ちゃんを待つ。

少しして源次に電話した。

「出た?」

「単発一回ですね…」

五、六千円にしかならない。

源次も喫茶店で待機に入る。

良夫ちゃんに電話をしてみた。

【ただいま電波の届かない場所におられるか電源が入っていないため…】

電源入れとけや!

苛立ちをコーヒーで抑えながら待つ。

待つ…

更に待つ…

待てど暮らせど電話も迎えも来ない。

少し心配になり源次にまた電話をした。

「連絡来た?」

「来ません…」

「連チャンしてんのかな?いくらなんでも遅いよね?」

「そうですね。携帯電源も入ってませんし…」

捕まれば携帯の電源は切らされる事が多い。

僕は源次に聞いた。

「待ち合わせがあるのに電源切るかな?」

「良夫さんは分かりません…」

確かに…

源次が言った。

「私の所からならタクシーで行けば近いですから見て来ますよ」

「うん… 頼むわ。悪いね」

3時間ほど既に待っていた。

いくら非常識な良夫ちゃんでも連絡ぐらいはして来るだろう。

カードの使い終わりに、エラーが出る事が気になっていた。

15分程経って源次から電話が入った。

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