流転 22

なにが殺すだ、このボンクラ…

殺す殺す言って殺す奴なんかいるか…

「こんなトコで殺す殺す言わない方が良いよ。例え冗談でも皆聞いてるんだから。人殺しで捕まっちゃうよ」

キレて見ろ…

お前に無理なのは、もう分かっている…

キレる奴なら既にキレている。

出鼻を妄爺に砕かれた段階で、キレるは無い…

お前の頭の中がお金だけになった事は知れた。

高圧な態度で脅しに終始するお前からはハッタリの臭いしか既にしない。

脅して言う事を聞かせる掛け合いしか知らないお前に僕は倒せない…

何かあれば妄爺が動く…

それを認めた時、僕から怖い物が消えた。

頭では認めないと思っても、どこかで認めている自分がいた。

僕は卑怯者だった。

この後も裏日男はただ吠えた。

コーヒーを運んで来た店員が席から離れた所で言った。

「ゴミだのカスだのは好きに言ったらいいさ。でも詐欺師だけは許せない。僕が泥棒させたのか?誰が言ってんの?証拠見せろよ」

「証拠なんか関係ねぇんだよ!」

「アンタさっきからずっと偉そうだけど何をそんなに威張ってんの?恐喝したいの?金なんか詐欺師呼ばわりされたら払わないよ。僕はもう謝るつもりは無い」

裏日男は、頭のおかしい奴を見る目になった。

スポンサーリンク

「僕は頼んでアンタから打ち子の仕事を貰ったんじゃないよ。婆さんを動かすかわりだろ?アンタに打ち子を入れるからって別に金貰った覚えもないし。責任なんか僕に無いだろ。殺すなんて言われる意味が分からない。まして詐欺師って何だよ。証拠も無いのに言い過ぎじゃない?」

「あのな〜 お前んトコのガキが泥棒してんだぞ…
そんなんで通ると思ってんのか?」

「思ってるよ。でも僕がやらせた訳じゃないけど、損害が出てる以上話しは聞かないといけないかと思って来たんだ。話しによっては金も払おうと思ってた。でも詐欺師呼ばわりされた以上、意地でも金は払わない」

落ち着いて話している内に僕の頭の中の負けの定義が変わっていた。

妄爺に刃物を振るわせる事なく話しを付けられるのであれば多少のお金は仕方ないと思うようになっていた。

負けは認める。

しかし頭だけは下げない。

それは後の弱みになる。

謝罪しなければいけない状況になったら一度帰って闇討ちにしようと決めた。

死ぬ手前まで…

僕を恫喝し続けた裏日男にならば同情せずに出来る…

腕を折り、足を折り、素っ裸にしてビデオに録画する。

手伝う人間はいくらでも居る。

そしてカタギになると言わせてやる。

捕まらないと思える方法で、泣いて許しを請わせてやる。

殺るか殺られるかを選べと言うならば僕は殺る道を選ぶ。

「そもそも責任って何?。アンタが婆さんを使い回して上手い事やってる時に僕に金くれたか?一円もくれてないだろ。そのくせ小銭を泥棒した奴がちっと出たらケツ取りの話しだけは僕に持ってくんのか?ヤクザだったら何でもありかい?」

「コラ!こっちは泥棒したガキの身柄押さえてんだぞ!能書きこいてんじゃねーぞ!」

「何これ?身代金要求?誘拐なんか自慢しないで良いよ。そんなガキ好きにしたら良いさ。でも人の事、詐欺師呼ばわりしてあんまり目茶苦茶ばっかり言ったら駄目だよ。僕にどうしろって言うの?」

「泥手連れて来い!喋らせてやるから!」

こいつへぼい…

恫喝しか思いつかないんだな…

20万ぐらいで片付くかな?

泥手達が裏日男の管理する店から抜いた金額は、10万円に届かない。

充分だな…

最後にキレるチャンスをやる…

「自分で捕まえなよ。僕はアンタの召し使いじゃないんだよ。詐欺師って僕に言った事謝りなよ。そしたら動いてやるから。そうすりゃ金も払う事を考えるよ」

妄爺の前傾姿勢がいつでも飛び掛かれるほど深くなった。

ヒヤリと背筋に寒気を覚える。

同時に、良しと思う自分がいた。

裏日男は、浮かしかけた腰を、そのまま椅子に戻した。

コメント