「駄目ではないですけど… 出来ますか?」
「出来るっての。ただ、タケダさんが戻しのカードに文句言わないならね」
「田中です…」
「あ?あ〜 タナカさんね。まあ、何でも良いだろ…」
タナカは納得行かない顔をしている。
ふざけんな…
買い取った名前にプライドなんて認めない。
少し慣れたら、笑えるアダ名でも付けてやろうと決めた。
そして付けたアダ名がタマキンである。
変造カードの終盤に僕はこのアダ名をタナカに向かい連呼する事になる…
「使えるカードは全部使って来るよ。結構やらせてる人間は多いから大変でも作ってくれよ。精度が上がれば客も紹介するし」
「分かりました。精度を上げるように努力します」
しかし、この時のタナカのセリフは嘘であった。
変造カードの精度に、タナカ達の努力など余り関係ない事を後に知った。
問題は変造カードを作る機械にあった。
カード会社の対策に対応する、機械のバージョンアップが必要なのである。
僕は、まだそんな事は知らなかった。
そして、精度の上がる事を、すぐには期待出来ない変造カードを仕入れる事が決定した。
この時期に作られた変造カードは、どこの工場が作ったとしても精度は余り変わらなかった。
抱えた客が少ない工場はカードの製造販売をやめる所が増えていた。
受付機設置までの一年ほどは手下達に一日10万円前後の変造カードを持たせていた。
人によって一日に使うカードの量はまちまちだが平均すればそんな物である。
しかし今度の変造カードは、どう考えても、それ程一日では使い切れない。
受付機を通すと言う作業が入る以上、時間的に無理である。
更には店側に変造カード使用が格段にバレやすくなった事により店の移動を余儀なくされる。
手下達の根性と能力を思った時、一日一人5万円の使えるカードを持たす事が精一杯なような気がした。
持たせる変造カード自体は三千円券約60枚…
その内の3割近くが受付機を通過すれば、使用出来る金額は5万円を少し越える。
話しの付いていない店で受付機に60枚もの変造カードを通す…
出来んのか?
もの凄い不安である。
更に受付機には機械特有の嫌なクセがあった。
使える変造カードを受付機に通すと新しい磁気情報を書き込まれたカードが5秒ほどで返却される。
しかし、使えない変造カードを受付機に通すと、データーの読み取りに時間がかかるのであろうか、10秒以上カードの返却までに時間が掛かるのであった。
例え数秒長いだけだとは言え受付機前に立つ僕達には絶望の時間である。
返却されたカードが使え無い事もテンションを下げさせる。
この数秒が僕達を捕まらせる結果になるような気がしていた。
一日に持たせる金額を5万円と設定したが本当に手下達に出来るのかが不安であった。
手下達だけでは無く、僕自身出来るのかすら分からなかった。
試し打ちでは成功したが、あれはスネ夫の店で一度受付機を通る事が確認された、受付機通過率100%のカードである。
これから仕入れるカードは違う。
受付機通過率30%なのである。
仕入れた以上、使い切れなければタナカ達に落胆を覚えさせる。
労力に儲けが見合わないと思われる。
それだけは避けたい…
一人に持たせる設定金額を最初は3万円に下げて様子を見る事に決めた。
全く出来ない奴も出るような気がしていた。
仕入れは、受付機通過率が低いので渡された変造カードの30%分のお金しか払わない事に決まった。
この時期に変造カードをやれたゴト師達は、ほとんど居なかったのではないだろうか。
ひと月ほど経つと、どこの工場でも同じような変造カードが作られる様になって行った。
カードの切り替わり自体には上手く乗れたようであった。
その日の夜に変造カードを続けると決めた手下達を集めた。
ギンパラの電波組は、数人を除き、カードはやらない。
彼らは地方へと出稼ぎに行く道を選んだ。
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