この日の練習には、婆さんの娘の、プッツンハツコも呼んである。
僕は最初、体内時計の狂いを補うために、婆さんに携帯で時報を聞かせようと思っていた。
特定の数字が出てから10秒以内に117に電話する。
1分待つのであれば、時報に繋がってから、50秒程時報を聞いて打ち出す。
この方法ならば店側は、まさか時報を聞いて時間を計っているとは思わないであろう。
更に、婆さんが携帯を使う事での利点がある。
年寄りならば電子機器に戸惑い、モタモタする事は普通に起こる。
不自然に席を立つ必要が無くなるのである。
老人に、携帯は外で使えなどと言う店が多いとは思えない。
長い時間携帯を使う訳でも無く、大きな声で話しをする訳でも無い。
例え言われたとしても婆さんならばトボケ切れる。
ボケの演技は、アカデミー賞、主演女優賞物である。
助演では無い…
主演である!
間違い無い!
更にまだ利点がある。
時報を聞く事で、セットは間違いなく一回で成功する。
他の打ち子は体内で時間を計っているので失敗する事が多い。
当たりが来て、初めてセットの成功を知るのである。
途中で体内時計が狂い失敗しても気付けない打ち子達は、更にソノ先のセットを続ける。
最後までセットして、当たりが来ない事を確認した後、次のセットをまた最初から始める。
次のセットはすぐに始める訳には行かない。
新しいセットをする場合2分間スタートチャッカーに玉を入れてはいけないと言う条件がある。
2分間席に何もせずに座っている馬鹿はいない。
当然席を立ってトイレに行ったりする。
失敗が度重なった場合の、席を立ったり座ったりの動きは、不自然以外の何物でも無い。
当たりを引くまでの、お金や玉を、余計に使う事にもなる。
出す金額が決められている以上、大当たり回数を少し増やしてカバーするしかない。
当たり回数が増えれば、店側にバレる可能性は上がる。
だからと言って、良夫ちゃんや男の打ち子が携帯を使うのは少し無理がある。
男だと言う事で既に疑いの対象なのである。
年寄りで婆さんでボケているから全てが上手くハマるのである。
婆さんは、誰も真似の出来ない、完璧な打ち子になる様な気がしていた。
しかし、穴に気付いた。
パチンコ屋の中で掛かる大音量の音楽によって時報が聞こえないのである。
そこでハツコの出番である。
「ハツコさんは時報の役ね」
「何よ、時報って!失礼ね!!」
やべ!
怒った!!
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