この当時、ゴト師を続けられなくなった奴らが手っ取り早く、お金に出来る仕事がいくつかあった。
その中の一つに、偽造、変造クレジットカードでの買い物がある。
データーだけを盗み出したクレジットカードや、完全に偽造されたクレジットカードなど、様々な種類、種別があった。
しかし、ゴト師を辞めた奴らがやれる事は、どれも、1番危険な部分の担当であった。
細かい説明はしない。
正体の知れないクレジットカードを握りしめて買い物に行く役である。
買って来た商品を上の人間に渡すと取り分が貰える。
クレジットカードで使った金額の、2、3割の取り分が相場ではなかったか。
これらのクレジットカードでの買い物詐欺も、パチンコの変造カード同様、長年に渡って世の中を騒がせる結果に為って行く。
現在でも細々と続いている。
当時、始まったばかりのクレジットカード詐欺は、例え下っぱとは言え、物凄い金額を稼ぎ出した奴らも沢山居る。
一日、一人50万円等と言う時期すらあった。
僕の所には手下が沢山いる。
人を集めるのはたやすい。
「やらないか?」
当然の様に、僕にも話しが舞い込み続けた。
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それらの話しを持って来る奴らは、僕に買い物をしろと言っている訳ではない。
人を回せと言っている。
それだけで、アガリの、5%から10%を、僕に支払うと言う。
やる気のある奴ならば、跳び上がって喜ぶ話しである。
危険が一切無いのである。
寝ているだけで、お金になる。
多分、変造カードの売り上げと変わらないアガリになる。
受付機がパチンコ屋に設置されると発表があるまでは、のらりくらりと誘いを断り続けていた。
やる気は全く無い。
のらりくらり、かわしていたのは、一々キレて断る訳にいかない、しがらみがあるからだけである。
妄爺や雪ちゃん等も同じ話しを僕に持って来ていた。
しかし僕は、頑なに断り続けた。
何かが違う…
受け入れられない…
決してゴト師が他の犯罪の上だと思っていた訳では無い。
犯罪に上も下も無い。
泥棒は泥棒なのである。
クレジットカード詐欺は、変造カードゴトと仕組みが似ていた。
相手が個人では無く、企業である。
最初に出合った犯罪が、クレジットカード詐欺ならば、僕はためらわず、詐欺師に為っていたであろう。
しかし、既に、ゴトに出合ってしまっていた。
次の犯罪に手を染めれば、僕は一生泥棒だろうと確信していた。
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